神戸市などで歯科医院を経営されている院長先生。
「就業規則がないけど、小さな歯科医院でも必要なの?」
「M&Aで引き継ぐよていの医院の労務管理が不安…」
「固定残業代というのを先輩の先生から聞いたけど問題ない?」
このようなお悩みはありませんか?
実は、就業規則がないことで、後から大きな労務トラブルに発展するケースが少なくありません。
厚生労働省が公表している賃金不払事案の件数:令和6年度22,354 件(前年比 1,005件増)
(出典:厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)」)
この記事では、M&Aで歯科医院を引き継いだ院長先生が、就業規則の整備によって残業代トラブルを事前に回避できた実例をもとに、就業規則の重要性と具体的な導入ステップを解説します。
この記事でわかること
- 歯科医院で就業規則がないことによって発生しやすい3つのリスク
- 実際の歯科医院での就業規則整備前後の変化
- 小規模歯科医院でも今すぐ始められる就業規則導入の手順
目次
就業規則とは?歯科医院での基礎知識
就業規則の定義と法的位置づけ
就業規則とは、労働時間、賃金、休日などの労働条件や、職場での服務規律を定めた職場のルールブックです。
労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。
ただし、スタッフ数が10人未満でも、就業規則を作成しておいた方が圧倒的に労務トラブルを未然に防ぐことができます。
院長を守る、あるいは大切なスタッフさんを一部の理不尽なスタッフさんから守る、これを実現するためには、就業規則は必要不可欠なツールです。
小規模歯科医院における現状
小規模歯科医院では、就業規則を整備していないケースが多く見られます。
特に、院長先生の口頭での説明のみで労働条件を決めていたり、これまでの慣習で運用していたりする医院では、以下のような潜在的なリスクを抱えています。
- 固定残業代の規定が不明確で、未払い残業代請求のリスク
- 変形労働時間制の届出がなく、実は自動的に毎日残業が発生し、未払い残業代がたまっている
- 服務規律や懲戒処分の規定がなく、問題スタッフへの対応が困難
なぜ就業規則が重要なのか?3つのメリット

就業規則を整備することで、歯科医院には以下のメリットがあります。
- 労務トラブルの予防
労働条件が明確になることで、スタッフとの認識のズレを防ぎ、未払い残業代請求などのトラブルを回避できます。 - 効率的な労務管理
残業代の計算方法や休暇取得のルールが明確になり、院長先生や事務スタッフの労務管理業務が効率化されます。
効率的な労務管理が実現することによって、院長先生のイライラが軽減します。小規模な歯科医院ほど「個別対応」が多く、それが院長先生の負担になっている現状があります。
- スタッフの安心感と定着率向上
明文化されたルールがあることで、スタッフは安心して働くことができ、離職率の低下につながります。
明確に決められたルールがないと、院長自身が「あの時はどうしたっけ?」と迷ったり、スタッフさんから、「〇〇さんの時と違うのはなぜですか?」と詰め寄られたりして、その都度対応するので、逆に暗黙のルールが増えすぎてしまい非常に労務管理が複雑になります。
【実例】M&Aで引き継いだ歯科医院のケース
引継ぎ前の問題点:就業規則がない状態での運用
ある歯科医院では、M&Aにより新院長先生が医院を引き継ぎました。
引継ぎ時の確認で、前院長時代には就業規則が存在せず、以下のような問題が発見されました。
厳密には、就業規則はあったのですが、過去に助成金を受給するためだけに作られたもので、医院の実態とはかけ離れた内容でした。
以下の事例の金額やシフトパターンは、あくまでも例です。歯科医院さんが特定されないように、実際のものとは内容を変更しています。
問題①:固定残業代の規定なし
- スタッフ全員に一律3万円の固定残業手当を支給
- しかし、就業規則に固定残業代の規定が全くなし
- 何時間分の残業代なのかも不明
- 実際の残業時間を計算しておらず、超過分の追加支給もなし
固定残業手当が無効となる可能性が極めて高く、その場合、固定残業手当3万円も通常の手当てと同様に残業代計算の対象となるため、残業代の単価が上昇。
問題②:毎日1時間分の残業代が自動的に発生
- 所定労働時間が1日8時間を超えるシフトパターンが存在
- パターン1:9:00~19:00(休憩1時間、実働9時間)、パターン2:9:00~13:00(休憩なし)
- パターン1で週4日勤務し、毎日1時間の残業が自動発生している状態
このまま放置すれば、過去3年分の未払い残業代請求のリスク。
就業規則整備による改善内容
新院長先生は、社会保険労務士のサポートのもと、以下の対策を実施しました。
対策①:1ヶ月変形労働時間制の導入
- 就業規則に1ヶ月変形労働時間制の規定を明記
- 1ヶ月平均で週40時間以内に収まるようシフトを設計
- これにより、1日9時間のシフトでも残業代が発生しない仕組みを構築
対策②:固定残業代制度の明確化
- 就業規則に固定残業代制度の詳細を規定
- 給与額によって固定残業手当の金額を変更
- 各スタッフごとに雇用契約書に「何時間分の残業代」か明記
対策③:勤怠システム導入による正確な労働時間管理
- クラウド型勤怠管理システムを導入
- タブレットで出退勤時刻を入力
- 毎月の残業時間を自動計算
- 固定残業時間を超えた場合は、超過分を追加支給
職場環境の変化:数字で見る改善効果
就業規則の整備により、以下のような具体的な効果が現れました。
| 項目 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 未払い残業代リスク | 約116万円(3年分推定)/人(※) | 0円 |
| 院内の雰囲気 | 「言ってもムダ」の雰囲気 | 「意見を言える」職場へ |
| スタッフの離職 | 年間1人は必ず退職 | 過去3年で1人 |
(※)未払い残業代リスクの計算
基本給25万円+固定残業手当3万円(総額28万円)、1か月平均173時間勤務、残業時間16時間/月。
28万円÷173時間×1.25×16時間×36か月=1,165,318円
(※固定残業手当は無効として計算)
院内の雰囲気の変化
前院長時代は、「言ってもムダ」「院長の独断ですべてが決まる」という雰囲気がありました。
就業規則の整備をとおして、新院長がスタッフさんとの対話重視の姿勢をとったことにより、スタッフさんが思ったことを言える職場に変わりました。
ただし、院長先生によれば「最近は過剰な要求も見られるようになり、今後の課題」とのことで、当事務所でも一緒により良い職場づくりに取り組んでいます。
実例から見る就業規則がない場合のリスクと問題点
リスク①:固定残業代が無効になる可能性
就業規則に固定残業代の規定がない場合、法的に無効と判断される可能性があります。
固定残業代が有効と認められるには、以下の要件を満たす必要があります。
- 就業規則や雇用契約書に明確に記載されていること
- 基本給と固定残業代が明確に区分されていること
- 何時間分の残業代かが明示されていること
- 固定残業時間を超えた分は追加で支払うことが明記されていること
- 固定残業代を除いた基本給+固定で支払われる手当が最低賃金を上回っていること
これらの要件を満たさない場合、固定残業代が無効と判断され、結果として、過去3年分の未払い残業代請求を受けるリスクが極めて高くなります。
参考:国際自動車事件(最高裁:令和2年3月30日判決):公益社団法人全国労働基準関係団体連合会
リスク②:変形労働時間制が認められない
1ヶ月変形労働時間制を導入するには、以下の手続きが必要です。
- 就業規則または労使協定に明記
- 労使協定の場合は労働基準監督署に届出が必要
- シフト表を事前に作成・周知
これらの要件を満たさない場合、変形労働時間制は無効となり、原則通り1日8時間・週40時間を超える労働に対して残業代の支払いが必要になります。
歯科医院では、診療時間が1日8時間を超えるケースも多いため、適切な変形労働時間制の導入が重要です。
リスク③:未払い残業代請求のリスク
現在のところ、賃金請求権の消滅時効は3年です。
つまり、スタッフから未払い残業代を請求された場合、最大3年分遡って支払う必要があります。さらに、労働基準法37条違反として、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性もあります。
悪質な場合は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることもあります。
さらに怖いのは、付加金です。
付加金とは、裁判で未払い賃金(残業代)の支払いが確定したときに、裁判官の裁量で、未払い賃金の額を上限として、追加の支払いを使用者に命じることができるものです。
つまり、最大で3年分+3年分=6年分の支払いとなる可能性があります。
小規模歯科医院の就業規則導入ステップ
ステップ①:現状の労働条件を洗い出す
まずは、現在の労働条件を正確に把握しましょう。
- 労働時間:始業・終業時刻、休憩時間
- 休日:週休制、年間休日数
- 賃金:基本給、各種手当の内訳、固定残業代の有無
- 休暇:年次有給休暇、特別(慶弔)休暇など
- その他:退職金、服務規律など
この段階で、固定残業代や変形労働時間制などに問題がないか確認することが重要です。
有給休暇の取得ルールや、退職時のルールなども大切です。
ステップ②:就業規則の作成または見直し
自力で作成する場合は、厚生労働省のモデル就業規則などを参考にしながら、自院の実態に合った就業規則を作成します。
特に以下の項目は慎重に検討しましょう。
- 労働時間・休憩・休日
1ヶ月変形労働時間制を導入する場合は、その旨を明記 - 有給休暇・特別(慶弔)休暇
取得時のルールや取得の基準(特別休暇を導入する場合)を明記 - 賃金
固定残業代の詳細(何時間分か、超過分の扱いなど)を明確に記載 - 服務規律
歯科医院として求める行動基準を明記 - 懲戒処分
どのような行為が懲戒の対象となるか明確化 - 自主退職
何日前までに届け出が必要か、引き継ぎはどうすべきかなどを明記
ステップ③:スタッフへの説明と意見聴取
就業規則を作成したら、スタッフに説明し、意見を聴取します。
スタッフの過半数を代表する者から意見書を作成し、提出してもらいます。
この段階で十分に説明し、スタッフの理解を得ることが、その後のトラブル防止につながります。
ステップ④:労働基準監督署への届出
常時10人以上のスタッフを使用する場合は、以下の書類を労働基準監督署に提出します。
- 就業規則(変更)届
- 就業規則本文
- スタッフ代表者の意見書
スタッフが10人未満の歯科医院は、労働基準監督署への届け出は任意です。
ステップ⑤:スタッフへの周知と運用開始
就業規則は、スタッフが自由に閲覧できる状態にしておく必要があります。
- 休憩室に掲示または備え付け
- 各スタッフに配布
- パソコンのフォルダ内やクラウド上で共有
運用開始後も、法改正や医院の状況変化に応じて定期的に見直しを行いましょう。
周知は非常に重要です。どれだけ就業規則の作成時にスタッフの意見を聴取していたとしても、周知がされていないと、就業規則の内容は無効となってしまいます。
※法律に定めるのある事項は、法律が優先されるため無効とはなりません。
よくある質問
まとめ:就業規則で働きたくなる組織へ
本記事では、M&Aで歯科医院を引き継いだ院長先生の実例をもとに、就業規則の重要性と導入方法を解説しました。
重要ポイント
- 就業規則がないと、固定残業代が無効になり、未払い残業代請求のリスクがある
- 1ヶ月変形労働時間制を適切に導入することで、残業代を削減できる
- 明確なルールがあることで、スタッフの安心感と満足度が向上する
就業規則は、単なる「法律上の義務」ではなく、院長先生が自分もスタッフも働きたくなる組織を作るための重要なツールです。
歯科医院の院長先生が、適切な就業規則を整備し、労務トラブルのない、働きやすい職場づくりを実現できることを願っています。
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