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1か月単位の変形労働時間制とは?制度の基礎・残業計算をわかりやすく解説(飲食店・美容室・歯科医院向け)

1か月単位の労働時間制度の基礎、残業計算の方法を解説

神戸市で飲食店・美容室・歯科医院を経営されているオーナー、院長先生へ。

「月末は忙しいのに残業代がかさむ」
「閑散期でも給与は変わらず人件費が重い」
「シフト制で柔軟に対応したいけど、労働時間管理が不安」

このようなお悩みはありませんか?

そこでこの記事では、社労士×生成AI活用アドバイザーの視点から、小規模事業所に適した「1か月単位の変形労働時間制」の基礎知識と残業計算のポイントを、わかりやすく解説します。

この記事でわかること

  • 1か月単位の変形労働時間制の基本的な仕組み
  • 飲食店・美容室・歯科医院での活用メリット
  • 残業代の正しい計算方法と注意点

1か月単位の変形労働時間制とは?基礎知識を確認

1か月単位の変形労働時間制とは、1か月以内の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が法定労働時間(原則40時間)を超えない範囲内で、特定の日や週に法定労働時間を超えて働くことができる制度です。

通常、労働基準法では「1日8時間・週40時間」が上限とされています。

しかし、月末や月初に業務が集中する業種では、この原則を守りながら効率的に人員を配置することが難しい場合があります。

変形労働時間制を導入すると、1か月の中で労働時間を柔軟に配分できるため、繁忙期には長く働き、閑散期には労働時間を短くするといった調整が可能になります。

1か月単位の変形労働時間制には、小規模事業所にとって大きなメリットがあります。

1. 残業代の削減が可能

繁忙期に1日8時間を超えて働いても、1か月を平均して週40時間以内であれば、時間外労働として扱われません。これにより、残業代の支出を適正化できます。

2. 柔軟なシフト作成

月末に忙しい飲食店、土日に集中する美容室、曜日によって患者数が変わる歯科医院など、業務の繁閑に合わせた効率的なシフト作成が実現します。

3. スタッフのワークライフバランス向上

閑散期には早めに帰宅できる、連休を取りやすくなるなど、スタッフにとっても働きやすい環境が整います。

常時10人未満の従業員を雇用している事業所で、特定の業種(飲食店・美容室・歯科医院など)は、週44時間まで設定できる特例措置があります。

この特例を活用することで、さらに柔軟な労働時間の設定が可能になり、小規模事業所の実態に即した運用ができます。

法律上は問題ありませんが、採用のことまで考えると週44時間の設定するかどうかは、よく検討する必要があります。

❌ 間違い:変形労働時間制なら残業代は不要
✅ 正解:所定労働時間を超えた分や、法定労働時間の総枠を超えた分には残業代が必要です。

❌ 間違い:シフトは自由に変更できる
✅ 正解:対象期間開始後のシフト変更は原則認められません。やむを得ない事情がある場合は、就業規則に具体的な変更事由を定める必要があります。

業種別の活用事例(飲食店・美容室・歯科医院)

週末や給料日後に客数が増え、平日は比較的落ち着いている飲食店では、1か月単位の変形労働時間制が効果を発揮します。

また、月末の締め作業や棚卸しで忙しくなる店舗にも適しています。

具体的な設定例:

曜日1日の勤務時間
金・土・日曜日9時間勤務
月・火曜日6時間勤務
水・木曜日8時間勤務

これにより、週末の繁忙期の残業代を削減しながら、平日にはスタッフに早めの退勤機会を提供できます。

土日祝日に予約が集中する美容室では、週末の労働時間を長く、平日を短く設定することで、効率的な人員配置が可能になります。

具体的な設定例:

曜日1日の勤務時間
土・日曜日9時間勤務
平日7時間勤務
月・火曜日店休日

曜日によって患者数が変動する歯科医院では、診療時間に合わせて労働時間を調整できます。

具体的な設定例:

曜日1日の勤務時間
月・水・金曜日9時間勤務
火・木曜日7時間勤務
土曜日4時間勤務
日曜日休診日

残業代の正しい計算方法

1か月単位の変形労働時間制では、3つの段階で時間外労働を判断します。

1. 1日単位の判断

・所定労働時間が8時間を超える日:その所定労働時間を超えた分
・所定労働時間が8時間以下の日:8時間を超えた分

2. 1週間単位の判断

・週の所定労働時間が40時間を超える週:その所定労働時間を超えた分
・それ以外の週:40時間を超えた分
※1日単位でカウントした時間外労働は除く

3. 対象期間全体の判断

・対象期間の法定労働時間の総枠を超えた分
※1日単位・週単位でカウントした時間外労働は除く

設定条件:

・対象期間:30日間(法定労働時間の総枠171.4時間)
・ある週の労働時間設定(下表参照)

曜日所定労働時間実際の労働時間
月曜9時間10時間+1時間
火曜9時間10時間+1時間
水曜8時間9時間+1時間
木曜7時間8時間+1時間
金曜7時間8時間+1時間
合計40時間45時間+5時間

計算手順:

ステップ計算内容時間外労働時間
1. 1日単位の判断月曜:10時間 – 9時間(所定)= 1時間
火曜:10時間 – 9時間(所定)= 1時間
水曜:9時間 – 8時間(所定)= 1時間
木曜:8時間 ≦ 8時間(法定)= 0時間
金曜:8時間 ≦ 8時間(法定)= 0時間
3時間
2. 1週間単位の判断実労働45時間 – 所定40時間 – 1日単位3時間2時間
3. 時間外労働の合計1日単位3時間 + 週単位2時間5時間

この例では、合計5時間が時間外労働として割増賃金の対象となります。
※対象期間全体での計算は省略しています。

時間外労働時間の計算の仕方は下図が参考になります。
厚生労働省:リーフレット「1か月単位の変形労働時間制」より抜粋」

1か月単位の変形労働時間制における時間外労働(残業)の計算例

時間外労働の計算が複雑になることを避けるため、すべての時間外労働に対して一律1.25倍以上の割増率を適用する方法があります。

これにより、法定内時間外労働と法定外時間外労働を区別する必要がなくなり、給与計算が大幅に簡素化されます。また、スタッフにとってもわかりやすくなります。

法定内時間外労働の場合は、割増賃金の支払いは必要ないので0.25分給与を多く支払うことになります。
ただし、計算の手間と計算ミスのリスクを考えると、費用対効果は高いと言えます。

1か月単位の変形労働時間制の導入の5ステップ

ここでは、実際に1か月単位の変形労働時間制を導入する手順を、5つのステップに分けて解説します。

まず、変形労働時間制の対象期間を決定します。

対象期間の設定:
1か月以内の期間を設定します。多くの事業所では「毎月1日~末日」または「毎月16日~翌月15日」など、給与計算期間と合わせると管理がスムーズです。

起算日の明確化:
「毎月1日を起算日とする」というように、就業規則に明記します。この起算日から対象期間が始まります。

対象期間の暦日数に応じて、法定労働時間の総枠を計算します。

計算式:
法定労働時間の総枠 = 週の法定労働時間(40時間または44時間)× 対象期間の暦日数 ÷ 7日

週40時間の場合の総枠:

歴日数総枠
31日177.1時間
30日171.4時間
29日165.7時間
28日160.0時間

週44時間の場合の総枠:
常時10人未満の小規模事業所の場合

歴日数総枠
31日194.8時間
30日188.5時間
29日182.2時間
28日176.0時間

対象期間の開始前に、各日の始業・終業時刻を具体的に決定します。

❌ 不適切な例:
「所定労働時間は8時間とする」(時刻が特定されていない)

✅ 適切な例:
「月曜日:9:00~18:00(休憩1時間、所定労働時間8時間)」
「火曜日:10:00~20:00(休憩1時間、所定労働時間9時間)」

シフト表での周知:
対象期間が始まる前(前月末まで)に、シフト表を作成してスタッフ全員に周知します。シフト表には、出勤日・休日・各日の始業終業時刻を明記します。

就業規則への規定(常時10人以上の事業所)

就業規則に以下の事項を記載し、労働基準監督署へ届け出ます。

  • 対象労働者の範囲
  • 対象期間(1か月以内)と起算日
  • 労働日および労働日ごとの労働時間
  • 労働時間の総枠

10人未満の事業所の場合、就業規則(または就業規則に準ずるもの)で規定したとしても、労働基準監督署への届け出は不要です。

労使協定の締結(常時10人未満の事業所)

就業規則の届出義務がない10人未満の事業所では、労使協定を締結し、労働基準監督署へ届け出ることで導入できます。

労使協定を締結した場合でも、1か月単位の変形労働時間制の適用を労働条件とするためには、就業規則にその旨を記載する必要があるというのが、一般的な考え方です。

従業員10人未満でも就業規則は必要?小規模事業所の判断のカンドコロ

制度導入の前に、スタッフ全員に以下の内容を丁寧に説明します。

  • 変形労働時間制の仕組み
  • 各自のシフトパターン
  • 残業代の計算方法
  • シフト変更のルール
  • メリット(繁閑に応じた働き方ができる等)

スタッフの理解と協力を得ることが、円滑な運用の基盤となります。

始業・終業時刻、シフトパターンの就業規則への記載

就業規則には、明確に始業・終業時刻を就業規則に記載しておく必要があります。

特にシフト制を採用している場合は、シフトパターンのすべてを記載しておかなければ、1か月単位の変形労働時間制が無効と判断される恐れがあります。

パターンが多い場合は、別紙に記載でも可

シフト変更の制限

対象期間が始まった後のシフト変更は、原則として認められません

やむを得ず変更する場合は、「スタッフの急病」「天災」など、具体的な事由や手続きの内容を就業規則に明記しておく必要があります。

判例に学ぶ:1か月単位の変形労働時間制を巡っての裁判で企業が敗訴した事例

就業規則への記載の仕方やシフト変更、不適切な運用により、企業側が敗訴した重要な判例があります。小規模事業所の皆様にも参考になる事例をご紹介します。

【事例1】日本マクドナルド事件(名古屋地裁 令和4年10月26日判決)

問題点:
全国864店舗で各店舗ごとに異なる勤務シフトを運用していたにもかかわらず、就業規則には代表的なシフトパターンのみを記載し、実際に使用していた店舗独自のシフトが記載されていませんでした

裁判所の判断(要旨):
就業規則に記載されていない勤務シフトは労働基準法の要件を満たしておらず、変形労働時間制は無効。会社側は「大企業で全店舗のシフトを記載することは不可能」と主張しましたが、事業規模による例外は認められないと判断されました。

結果:
変形労働時間制が無効とされ、1日8時間・週40時間を超える労働について、未払い賃金約61万円の支払いが命じられました。

【事例2】JR東日本(横浜土木技術センター)事件(東京地裁 平成12年4月27日判決)

裁判所の判断(要旨):
就業規則における「業務上の必要がある場合、指定した勤務を変更する」との定めは、包括的なものであるから、具体的な変更理由の「特定」の要件に欠ける違法、無効なものと判断されました。

これらの判例から学ぶべきポイント

  • 「業務の都合により変更する」という曖昧な規定は認められない
    変更事由は「スタッフの急病による欠勤」「天災による営業時間の変更」など、具体的に就業規則に明記する必要があります。
  • 頻繁なシフト変更は変形労働時間制の無効につながる
    月の途中で何度もシフトを変更している場合、「各日・各週の労働時間を特定している」という要件を満たさないと判断されます。
  • 小規模事業所でも基準は同じ
    「うちは小さい店だから」という理由での例外は認められません。事業規模に関わらず、法律の要件を満たす必要があります。

変形労働時間制が無効と判断された場合

変形労働時間制が無効とされた場合、過去3年分の未払い賃金(残業代)請求が認められる可能性があります。

複数のスタッフから訴えられれば、事業継続が困難になるほどの金額になることもあるため、正しい運用が不可欠です。

その他の注意点

18歳未満のスタッフへの制限
18歳未満の労働者には、1日8時間・週48時間(対象期間を通じて平均週40時間)以内という制限があります。

正確な勤怠管理の徹底
変形労働時間制では、日々の労働時間を正確に記録することが不可欠です。タイムカードや勤怠管理システムを活用し、適切に管理しましょう。

社労士が教える労務管理のポイント

1か月単位の変形労働時間制は、正しく運用すれば事業所とスタッフの双方にメリットがありますが、誤った運用をすると未払い賃金請求などのトラブルに発展するリスクがあります。

特に、過去3年分の残業代の未払い請求が認められた場合、相当な金額になる可能性があるため、慎重な運用が必要です。

神戸市内の小規模事業所では、以下の点に特に注意が必要です。

1. 特例措置の適用要件の確認
常時10人未満の従業員数であることを、適切に判断します。繁忙期に臨時スタッフを雇う場合も、「常時」の考え方を正しく理解しておきましょう。

常時・・・正社員だけでなくパート・アルバイトも含み、定期的に出勤している人と考えておくとよいです。例えば、月1回だけでも決まって出勤する人は、「常時」に含まれます。

2. シフト制との組み合わせに注意
シフト制を採用している場合、毎月シフトを作成する前に労働時間の総枠を確認し、超過しないよう計画的に組む必要があります。

3. スタッフとのコミュニケーション
制度の趣旨やメリットを丁寧に説明し、スタッフの理解と協力を得ることが、円滑な運用の鍵となります。

導入前に、以下のチェックリストを確認しましょう。

  • 就業規則または労使協定に必要事項が明記されているか
  • 対象期間の起算日が明確になっているか
  • 各日・各週の労働時間が具体的に特定されているか
  • 法定労働時間の総枠を超えていないか
  • スタッフへの説明資料が準備されているか
  • 勤怠管理の方法が確立されているか
  • 残業代の計算方法がマニュアル化されているか

よくある質問

変形労働時間制を導入すると、本当に残業代は減りますか?

適正に運用すれば、繁忙期の残業代を削減できます。

ただし、1日や1週間の所定労働時間を超えた分、または対象期間全体の法定労働時間の総枠を超えた分には、残業代の支払いが必要です。

残業代が完全になくなるわけではなく、繁閑に応じた適正な労働時間配分により、無駄な残業代の支出を抑えることができる制度と理解してください。

アルバイトやパートスタッフにも適用できますか?

はい、適用できます。正社員だけでなく、アルバイトやパートスタッフにも1か月単位の変形労働時間制を適用することが可能です。

ただし、18歳未満のスタッフには特別な制限があるため、高校生アルバイトなどを雇用している場合は注意が必要です。

また、すべてのスタッフに同じ制度を適用する必要はなく、雇用形態ごとに異なる労働時間制度を採用することもできます。

シフトを途中で変更することは絶対にできませんか?

原則として、対象期間開始後のシフト変更は認められませんが、やむを得ない事情がある場合は変更可能です。

ただし、「業務の都合により変更することがある」といった曖昧な規定は認められません。

「スタッフの急病」「天災による営業時間の変更」など、具体的な変更事由を就業規則に明記しておく必要があります。

また、頻繁に変更が発生する場合は、変形労働時間制の要件を満たさないと判断される可能性があります。

まとめ:1か月単位の変形労働時間制で働きやすい職場へ

本記事では、1か月単位の変形労働時間制について、基礎知識から残業計算の方法、業種別の活用例まで詳しく解説しました。

重要ポイント

  • 1か月を平均して週40時間以内(小規模事業所は44時間)であれば、特定の日や週に法定労働時間を超えて働くことができる
  • 残業代の計算は、1日単位・週単位・対象期間全体の3段階で判断する
  • 正しく運用すれば、事業所とスタッフの双方にメリットがある制度である

神戸市の飲食店・美容室・歯科医院の皆様が、自分もスタッフも働きたくなる組織づくりを実現するため、1か月単位の変形労働時間制の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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ABOUT US
社会保険労務士×生成AI活用アドバイザー 小西朋安
小西 朋安社会保険労務士×生成AI活用アドバイザー
社労士歴19年で、元プログラマーの異色キャリア。 わかりやすい就業規則の作成・経営理念の策定・浸透支援など、職場のあり方づくりに長年取り組んでいる。 近年は、GPTsを活用した求人原稿作成ツールや業務支援AIを自ら開発し、飲食店、美容室、歯科医院などの生成AI活用を積極的に支援している。