歯科医院の開業をお考えの先生。
「開業準備で労災保険や社会保険の手続きが必要なのは分かっているけど、何をいつまでに提出すればいいの?」
「スタッフを雇う前に準備しておくべきことは?」
このような疑問をお持ちではありませんか?
歯科医院の開業時には、診療所開設届だけでなく、スタッフを雇用する際の労働保険・社会保険の手続きが必須です。
手続きを怠ると、役所から罰則を受けだけでなく、スタッフの信頼を失うリスクもあります。
そこでこの記事では、社労士×生成AI活用アドバイザーの視点から、歯科医院開業前に確認すべき労災保険、雇用保険、社会保険の手続きを詳しく解説します。
この記事でわかること
- 労災保険・雇用保険・社会保険それぞれの加入条件と届出期限
- 開業準備段階で必要な手続きの完全チェックリスト
- 手続き漏れを防ぐためのポイントと注意事項
目次
歯科医院開業時に必要な保険の基礎知識
労働保険と社会保険の違いとは?
歯科医院開業時に必要な保険は、労働保険と社会保険の2つに大きく分類されます。
労働保険は、労災保険と雇用保険を合わせた総称です。
●労災保険はスタッフを1人でも雇用する場合、必ず加入が必要になります。
●雇用保険は加入要件(後述)を満たしたスタッフが加入することになります。
社会保険は、健康保険と厚生年金保険のことを指します。
●法人の場合は院長(医療法人の理事長)一人でも加入義務があります。
●個人開業の場合でも、常時5人以上スタッフを雇用する場合は加入が必要です。
個人事業の場合は、院長自身は社会保険に加入できません。
広義の意味では、労災保険・雇用保険・健康保険・厚生年金保険の総称を社会保険といいます。
歯科医院における保険加入の重要性
保険加入は法律で義務付けられているだけでなく、優秀なスタッフの採用と定着にも直結します。
万が一の労災事故やケガや病気の際にも、適切に保険に加入していることで、医院とスタッフ双方が守られます。
また、特に若い歯科衛生士や歯科助手を採用する際、「社保完備」は大きなアピールポイントになりますし、専門学校も社保完備の医院への就職を学生に勧める傾向があります。
実際に、社会保険に加入してから採用がしやすくなったとおっしゃる院長先生がいらっしゃいます。
飲食業界の話ですが、社会保険に加入していないお店には、学生を紹介しないという専門学校があります。
個人開業と法人開業での違い
上述ではありますが、個人開業と医療法人では、社会保険の加入義務に違いがあります。
●医療法人の場合は、院長一人(医療法人の理事長)でも社会保険の加入が義務付けられます。●個人開業の場合は、常時5人以上のスタッフを雇用していると加入義務が発生します。
事業所としての加入義務は発生しますが、実際に社会保険に加入しなければならないのは、社会保険の加入要件(後述)を満たすスタッフだけです。
労災保険の手続き完全ガイド
労災保険とは?加入対象者と保険料
労災保険は、スタッフが業務中や通勤中にケガや病気をした場合の保険です。
スタッフを1人でも雇用したら、雇用形態や労働時間に関わらず全員が加入対象となります。パートやアルバイトのも対象です。
●保険料は全額事業主(医院)負担
●2025年度の保険料率は、0.3%(毎年見直しがありますが、変更なしのケースも多々あります。)厚生労働省:令和7年度の労災保険料率
●保険料の計算の仕方
スタッフの1年間の給与総額(毎年4月分~翌年3月分、賞与含む)×労災保険料率
※給与総額の千円未満は切り捨て
労災保険の届出期限と提出先
労災保険の手続きは、スタッフを雇用した日から10日以内に行う必要があります。
実際は、10日を過ぎても罰則を科されることはありませんが、可能な限り早く届け出を行いましょう。
ただし、10日を過ぎて届け出を怠っている間に労災事故が起きた場合は、罰則を科せられる可能性があります。(長期間未加入、労基署の指導がありながら未加入などの場合)
詳細は、厚生労働省:「(労働保険)成立の手続きを怠っていた場合は」
【必要な書類など】
- 労働保険保険関係成立届
- 労働保険概算保険料申告書
- 概算保険料の支払い(納付書は概算保険料申告書に添付)
※用紙は最寄りの労働基準監督署、労働局などで入手可能、様式のダウンロードなし(電子申請は可能)
労働保険料には、労災保険料と雇用保険料が含まれます。
労働保険概算保険料申告書は、保険関係成立(労災加入)から50日以内ですが、通常は保険関係成立届と一緒に提出します。
労働保険料は、前払いです。毎年4月(新規で加入の場合は加入月)から翌年3月までの保険料を先に支払います。
毎年7月に労働保険の年度更新(労働保険料の申告)がありますので、その時に、前年度の保険料の精算を行うのと同時に、その年度の1年分の保険料の申告と納付を行います。
申告する概算保険料が40万円以上(労災のみ加入の場合は20万円以上)の場合は、分割での納付が可能です。(最大3回)
【提出先】
医院の所在地を管轄する労働基準監督署(窓口、郵送、電子申請のいずれか)
郵送の際は、控えを返送してもらうために、必ず返信用封筒(切手貼付)を同封します。
概算保険料申告書(納付書付きに限る)は、金融機関に提出することができますが、控えに労働基準監督署の受付印がもらえませんので、おすすめできません。
【厚生労働省の解説サイト】
・労働保険の成立手続(一元適用と二元適用がありますが、歯科医院は一元適用です。)
労災保険の必要書類チェックリスト
労災保険加入時に必要な書類は以下の通りです。
| 書類名 | 提出期限 | 提出先 |
|---|---|---|
| 保険関係成立届 | 雇用開始日から10日以内 | 労働基準監督署・電子申請 |
| 概算保険料申告書 | 保険関係成立日から50日以内 | 労働基準監督署・電子申請・金融機関 |
| 履歴事項全部証明書(法人の場合) | 上記提出時に添付(不要な労働基準監督署もあります。) | – |
個人事業の場合は、税務署で受付済みの開業届の控えを求められることがあります。
雇用保険の手続き完全ガイド
雇用保険とは?加入対象者と保険料
雇用保険は、スタッフが失業した場合や育児・介護で休業する場合の保険です。
加入対象は、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあるスタッフです。
●雇用保険料は、事業主とスタッフ双方が負担します。スタッフ分の保険料は、毎月の給与から天引きします。
●2025年度の保険料率(歯科医院は一般事業に該当)は、事業主負担分が0.9%、スタッフ負担分が0.55%の合計1.45%です。(毎年見直しがありますが。)厚生労働省:令和7年度の労災保険料率
●保険料の計算の仕方
【毎月の給与(または賞与)計算時の天引き額】
雇用保険加入スタッフ各人の給与総額(賞与額)×スタッフ負担分の雇用保険料率
【保険料の申告時】
雇用保険加入者全員の給与総額(毎年4月分~翌年3月分、賞与含む)×雇用保険料率(労使合計)
※給与総額の千円未満は切り捨て
保険料の申告・納付は、労災保険料と合わせて行います。新規加入時と毎年7月です。
雇用保険の届出期限と提出先
雇用保険の手続きは、必ず労災保険の手続き後に行います。
雇用保険適用事業所設置届は、事業所設置日から10日以内に提出します。
個々のスタッフの雇用保険被保険者資格取得届は、採用日の翌月10日までに提出が必要です。
設置届の提出時には、少なくとも1人の資格取得届を一緒に提出する必要があります。
実際は上記の期限を過ぎても通常通り手続きをしてもらえますが、60日以上経過すると、直近までの賃金台帳や出勤簿(タイムカード)、遅延理由書などの追加書類が必要となります。
【必要書類など】
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
- 資格取得をするスタッフの賃金台帳、出勤簿(タイムカード)、労働者名簿、雇用契約書
- 労働保険保険関係成立届と概算保険料申告書の控え(労働基準監督署の押印済み)
- 履歴事項全部証明書(法人の場合)
- 事業主の世帯全員の住民票(個人事業の場合)※マイナンバーはなし
- 事業を行うのに、許認可や登録の届け出が必要な事業の場合は、その確認書類
※歯科医院の場合は、保健所の開設届の控え(保健所の押印済み) - 事業活動の実態が証明できる書類
※業取引相手から発行された・請求書、領収書、納品書、公共料金の請求書など - 事業所の所在地が、履歴事項全部証明書や住民票と異なる場合
※賃貸借契約書、公共料金の請求書など
上記は標準的なケースで、ハローワークによっては必要書類が異なることがあるので、事前に管轄のハローワークに確認をするのがおすすめです。
様式は、最寄りのハローワーク、もしくは、ハローワークインターネットサービスでダウンロード可能です。
【提出先】
医院の所在地を管轄するハローワーク(公共職業安定所)(窓口、郵送、電子申請のいずれか)
繰り返しになりますが、雇用保険の手続きには労災保険加入の労働基準監督署の受付印付き書類が必要です。必ず労災保険の手続きを先に完了させてください。
電子申請の場合は、手続き完了後に発行される公文書(PDF)に受付印が押印されています。
【厚生労働省の解説サイト】
・ハローワークインターネットサービス・帳票一覧
※雇用保険適用事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届はこちらでダウンロード可能です。
・雇用保険適用事業所設置届の記入例(沖縄労働局「適用事業所についての諸手続」)
・雇用保険被保険者資格取得届の記入例(ハローワーク神奈川)
社会保険(健康保険・厚生年金)の手続き完全ガイド
社会保険とは?加入条件と保険料
●法人の場合は、院長一人(医療法人の理事長)でも社会保険の加入が義務付けられます。
●個人開業の場合は、常時5人以上のスタッフを雇用する際に加入義務が発生します。
事業所としての加入義務は発生しますが、実際に社会保険に加入しなければならないのは、社会保険の加入要件(本セクションで説明)を満たすスタッフだけです。
以下の解説は、協会けんぽ(全国健康保険協会)の解説となります。
●保険料は、事業主とスタッフ双方が負担します。スタッフ分の保険料は、毎月の給与から天引きします。
●2025年度の保険料率は、健康保険と厚生年金保険で分かれています。
・健康保険料率は都道府県によって異なります。(原則、毎年3月分から見直しがあります。)
40歳以上64歳以下の場合は、介護保険料が課されます。
各都道府県の保険料率はこちらで確認できます。
→都道府県毎の保険料額表(全国健康保険協会)
・厚生年金保険料率は全国一律で18.3%(労使折半で、9.15%ずつ)です。
※今のところ見直しの予定はありません。
●保険料の計算の仕方
【毎月の給与計算時】
各スタッフの標準報酬月額×保険料率(スタッフ負担分)
標準報酬月額とは、社会保険料(健康保険・厚生年金)を計算するため、毎月の給与額を一定の幅で区分した仮の報酬額のことです。
例えば、標準報酬月額が24万円は、給与額230,000以上249,999円以下の人が該当します。
標準報酬月額は、原則、資格取得時と毎年7月の算定基礎届(結果の反映は、同年9月分の保険料から)で決定します。
【賞与支給時】
各スタッフの標準報賞与額×保険料率(スタッフ負担分)
賞与から天引きする社会保険料を算出する際の基準で、支給額(額面)から1,000円未満を切り捨てた金額のことです。
保険料の納付は毎月行います。労使合算した金額を支払います。
社会保険の届出期限と提出先
社会保険の手続きは、社会保険加入の要件を満たした日から5日以内に行う必要があります。
要件を満たした日は、社会保険の加入対象者が発生した日と考えてもらえれば良いです。
現実的には、5日以内に手続するのは難しいことが多いです。5日を超えても通常どおり手続きは可能です。
【必要書類など】
- 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
- (扶養家族がいる場合)健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)
- (法人の場合)法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
- (個人の場合)事業主の世帯全員の住民票(個人番号なし)
- (個人の場合)代表者の公租公課の領収書(1年分)
- (事業所の所在地が、履歴事項全部証明書や住民票と異なる場合)賃貸借契約書
様式は、日本年金機構のホームページからダウンロードできます。
【提出先】
窓口の場合:医院の所在地を管轄する年金事務所
郵送の場合:医院の所在地を管轄する事務センター
電子申請:可能
【日本年金機構の解説サイト】
・健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)
上記のサイトに記入例も掲載されています。
歯科医師国保という選択肢
歯科医院の場合、院長とスタッフの健康保険として歯科医師国保という選択肢もあります。
歯科医師国保は、都道府県の歯科医師会に加入している医院が利用できる制度で、保険料が定額(都道府県により異なるが月額1万円~1.3万円程度)という特徴があります。
法人化した場合は継続加入できないケースもあるため、事前に確認が必要です。
厚生年金については別途、日本年金機構に加入が必要な点にも注意してください。
近年の傾向として、協会けんぽの健康保険を望むスタッフさんが増えている印象です。実際に、スタッフさんから協会けんぽに変えてほしいと言われた院長先生もいらっしゃいます。
手続き漏れを防ぐためのポイント
よくある手続き漏れとその対策
歯科医院開業時によくある手続き漏れには、以下のようなケースがあります。
❌ 間違い1: パートやアルバイトは労災保険に加入しなくて良いと思っていた
✅ 正解: 労働時間に関わらず、雇用したスタッフ全員が労災保険の対象です。
❌ 間違い2: 個人開業なので社会保険は不要だと思っていた
✅ 正解: 常時5人以上雇用する場合は個人開業でも加入義務があります。
❌ 間違い3: 開業して落ち着いてから手続きすれば良いと思っていた
✅ 正解: 各手続きには明確な期限があり、遅れると罰則の対象となることがあります。
多少の遅れは大きな影響がありませんが、なるべく早く手続きをしましょう。
専門家に相談すべきタイミング
以下のような場合は、専門家(社会保険労務士)への相談をお勧めします。
- 開業準備で何から手を付けて良いか分からない
- 複数の手続きを同時進行で進める必要がある
- スタッフの雇用形態が複雑で、保険加入の判断に迷う
- 就業規則の作成が必要だが、どう書けば良いか分からない
- 開業後の労務管理全般について継続的なサポートが欲しい
特に開業準備期間は診療設備の準備や内装工事など多忙を極めるため、労務関連の手続きは専門家に任せることで、本来の診療準備に集中できるメリットがあります。
社労士が教える労務管理のポイント
就業規則作成の重要性
常時10人以上のスタッフを雇用する場合、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。
就業規則には、労働時間、休日、賃金、退職に関する事項など、必ず記載しなければならない項目があります。
10人未満の医院でも、院長先生の労務管理を”ラク”にするため、そして、トラブル防止のために就業規則を作成しておくことをお勧めします。
労働時間管理と賃金台帳の作成
労働時間の適切な管理は、労務トラブル防止の基本です。
タイムカードや出勤簿で正確に記録し、残業が発生した場合は適切に残業代を支払う必要があります。また、賃金台帳には、支払った賃金の内訳を明確に記載しなければなりません。
これらの記録は、労働保険の年度更新や社会保険の算定基礎届にも必要となるため、開業時から適切に管理する習慣をつけることが重要です。
給与計算システムや勤怠管理システムを導入すれば、自動的に法律上必要な帳票が生成されます。
開業後も続く年次手続き
開業後も、毎年必要となる手続きがあります。
| 手続き | 時期 | 内容 |
|---|---|---|
| 労働保険年度更新 | 7月10日期限 | 前年度の確定保険料と当年度の概算保険料の申告・納付 |
| 算定基礎届 | 7月10日期限 | 社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額の届出 |
| 賞与支払届 | 賞与支給の都度 | 賞与支給額の届出(支給日から5日以内) |
これらの手続きは毎年必ず発生するため、スケジュール管理が重要です。
神戸市の歯科医院開業支援情報
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- 就業規則作成: 歯科医院に特化した就業規則の作成サポート
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よくある質問
まとめ:歯科医院開業を成功させるために
本記事では、歯科医院開業前に確認すべき労災保険、雇用保険、社会保険の手続きについて詳しく解説しました。
重要ポイント
- 労災保険は雇用開始日から10日以内、社会保険は事業所設立日から5日以内に手続きが必要
- 雇用保険の手続きには労災保険の受付印付き書類が必要なため、手続きの順序が重要
- 期限を守れなかった場合は罰則のリスクがあり、万が一の労災事故時にも大きな負担となる
- 適切な保険加入は、優秀なスタッフの採用と定着にも直結する
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