神戸で一番わかりやすい就業規則『みんなの就業規則』はこちら

固定残業代(みなし残業代)制度の正しい導入手順|歯科医院で失敗しない3つのポイント

固定残業代(みなし残業代)制度の導入3つのポイント

神戸市で歯科医院を経営されている院長先生。

「固定残業代を導入したいけれど、正しい手順がわからない」
「今の運用で法的に問題ないか不安」
「スタッフとのトラブルを避けて導入したい」

このようなお悩みをお持ちではありませんか?

固定残業代(みなし残業代)制度は適切に運用すれば給与計算の効率化につながる制度ですが、運用を誤ると労働基準法違反となり、未払い残業代の請求や労務トラブルに発展するリスクがあります。

そこでこの記事では、歯科医院の労務管理に精通した社労士が、固定残業代制度の正しい導入手順と、失敗しないための3つのポイントを詳しく解説します。

この記事でわかること

  • 固定残業代(みなし残業代)制度の正しい仕組みと法的要件
  • 歯科医院での具体的な導入手順(3ステップ)
  • よくある失敗パターンと対処法

固定残業代(みなし残業代)制度とは?基本の仕組みを確認

固定残業代制度とは、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ決めた一定時間分の残業代を毎月定額で支払う制度です。

「みなし残業代」とも呼ばれており、給与計算の簡素化や人件費の見通しを立てやすくすることを目的に導入さることが多いです。

例えば、「総額25万円(基本給21万円、固定残業代4万円)」という形で給与が設定されます。

❌ 間違い:固定残業代を設定すれば、何時間残業させても追加の残業代を支払わなくてよい

✅ 正解:固定残業時間を超えた分は、必ず別途残業代を支払う義務があります

固定残業代は20時間分と設定していても、実際の残業が25時間になった場合、超過した5時間分の残業代を追加で支払わなければなりません。

固定残業代が無効になる3つの典型的な失敗パターン

実際の歯科医院でよく見られる失敗パターンを確認しましょう。

これらに該当すると、固定残業代が無効と判断され、別途残業代の支払いを求められる可能性があります。

給与明細には「基本給20万円、固定残業手当3万円」と記載されているが、この3万円が何時間分の残業代に相当するのか明確にしていないケースがあります。

固定残業代が有効と認められるには、「何時間分の残業代であるか」を明確にする必要があります。

時間数が不明確な場合、裁判では固定残業代として認められず、3万円は単なる手当とみなされ、別途残業代の支払いを命じられることがあります。

時間数が明示されていない場合でも、計算によって時間数が算出できれば、固定残業代制度は有効という見解もあります。

固定残業代を設定することによって、タイムカードや勤怠管理システムで実際の労働時間を記録していないケース。

固定残業代制度を導入していても、労働時間の管理義務は免除されません

実際の残業時間を把握していなければ、固定残業時間を超過した分の追加残業代を計算・支払うことができず、未払い残業代が発生します。

固定残業代は20時間分と設定しているが、実際には毎月30時間程度の残業が発生しているにもかかわらず、超過した10時間分の残業代を支払っていないケースです。

これは明確な労働基準法違反です。未払い残業代としての支払いを求められる可能性があります。

最長で3年間の支払いが必要となる可能性があります。

固定残業代制度の正しい導入手順【3ステップ】

それでは、歯科医院で固定残業代制度を適法に導入するための具体的な手順を解説します。

まず、スタッフの実際の残業時間を把握しましょう。1年間の残業実態を確認・または記録するのがおすすめです。

タイムカードや勤怠管理システムで出退勤時刻を記録し、診療前の準備時間や診療後の片付け時間、ミーティングの時間も含めて計測します。

歯科衛生士・助手・受付など職種別に平均残業時間を算出しましょう。

歯科医院では、診療開始前の器具準備や診療終了後の清掃・滅菌作業も労働時間に含まれます。

調査結果に基づいて、適切な固定残業時間を設定します。

平均残業時間よりやや多めに設定するのが一般的です。例えば、平均残業時間が月15時間であれば、固定残業時間は20時間程度に設定します。

固定残業代の計算例:
基本給21万円のスタッフで、固定残業時間20時間を設定する場合
①210,000円 ÷ 173時間(月平均所定労働時間)= 1,214円
②1,214円 × 1.25(割増率)× 20時間 = 30,350円
したがって、給与は「月給240,350円(月給210,000円+固定残業代30,350円(20時間分))」となります。

制度設計ができたら、必ず文書化してスタッフに説明します。就業規則には、固定残業代制度を採用する旨、固定残業代の対象となる残業の種類、固定残業時間、固定残業時間を超えた場合は差額を支払う旨を記載します。

雇用契約書への記載例:
「基本給210,000円、固定残業手当30,350円
※固定残業手当は、時間外労働20時間分の割増賃金として支給する。
※時間外労働が20時間を超えた場合は、超過分を別途支給する。」

制度導入前に、全スタッフに対して説明会を実施し、固定残業代の仕組みと計算方法、基本給と固定残業代の内訳、固定残業時間を超えた場合の取り扱いなどを丁寧に説明しましょう。

失敗しない3つのポイント

給与明細や雇用契約書で、基本給と固定残業代を別々に記載することが必須です。

悪い例:「月給24万円(固定残業代を含む)」
良い例:「基本給210,000円、固定残業手当30,350円(時間外労働20時間分)」

基本給と固定残業手当の区分が明確でないとして、固定残業代制度が無効とされた最高裁判例があります。
テックジャパン事件(最高裁平成24年3月8日判決)全国労働基準関係団体連合会:労働基準判例検索

固定残業代制度を導入しても、労働時間の記録義務は継続します。

タイムカードや勤怠管理システムで毎日の出退勤を記録し、給与計算期間ごとに残業時間を集計します。固定残業時間を超えた場合は、超過分を計算して支払いましょう。

年1回程度、実際の残業時間と固定残業時間の設定が適切か確認しましょう。毎月、固定残業時間を大幅に超過している場合は、業務改善や固定残業時間の見直しを検討します。

社労士が教える歯科医院特有の注意点

歯科医院では、職種によって残業の発生状況が異なります。歯科衛生士は診療補助や器具の滅菌作業で残業が発生しやすく、受付スタッフは比較的残業が少ない傾向があります。

職種ごとに固定残業時間を設定することも可能です。

個人ごとに固定残業時間数を設定することも選択肢の一つです。

従業員10名未満の歯科医院は、「小規模保健衛生業」として、法定労働時間を「1日8時間・1週間44時間」まで拡大できる特例があります。

この特例を活用して、シフトをうまく組み合わせましょう。

ただし、労働時間が長い歯科医院という印象によって、採用面で不利になる可能性があります。また、制度自体が廃止になる可能性もあります。

よくある質問

パート・アルバイトスタッフにも固定残業代を適用できますか?

可能ですが、時給制のパート・アルバイトの場合、固定残業代制度のメリットが少ないため、あまり推奨されません。

時給制の場合は、実際の労働時間に応じて残業代を計算する方が、給与計算もシンプルで、スタッフにとってもわかりやすいでしょう。

既存スタッフの給与体系を固定残業代制に変更できますか?

変更は可能ですが、スタッフ本人の同意が必要です。

給与の内訳が変わることで、ボーナスや退職金の計算の仕方によっては、幅広く影響が出る可能性があるため、不利益変更にならないよう慎重に進めましょう。

また、変更前後で総支給額が減少しないように設計することが重要です。

固定残業時間内に残業がほとんど発生しない月はどうすればいいですか?

固定残業代は、実際の残業時間に関わらず毎月支払う必要があります。

残業が少ない月でも、設定した固定残業代を満額支払います。これは制度の性質上、やむを得ないものです。

逆に言えば、スタッフにとっては収入が安定するというメリットになります。

まとめ:固定残業代制度で適法な労務管理を実現しよう

本記事では、歯科医院での固定残業代制度の正しい導入手順について解説しました。

重要ポイント

  • 固定残業代はできるだけ「何時間分」かを明確にする
  • 導入後も必ず労働時間を管理し、超過分は支払う
  • 基本給と固定残業代を明確に区分して記載する

適切に運用すれば、給与計算の効率化とスタッフの収入安定化を両立できる制度です。

神戸市の歯科医院の皆様が、自分もスタッフも働きたくなる組織づくりを実現するため、ぜひ正しい手順で導入してください。

なお、労働時間管理の基礎知識については、『歯科医院・飲食店・美容室のための労働時間・休日・休暇の基礎知識』の記事もあわせてご覧ください。

歯科医院・飲食店・美容室のための労働時間・休日・休暇の基礎知識

🎯 固定残業代制度の導入でお困りの方へ

無料相談実施中!

✅ 現在の給与体系が適法か30分でチェック
✅ 歯科医院に最適な制度設計をご提案
✅ 就業規則・雇用契約書の作成相談

【歯科医院様向け特別サポート】
初回相談無料

ABOUT US
社会保険労務士×生成AI活用アドバイザー 小西朋安
小西 朋安社会保険労務士×生成AI活用アドバイザー
社労士歴19年で、元プログラマーの異色キャリア。 わかりやすい就業規則の作成・経営理念の策定・浸透支援など、職場のあり方づくりに長年取り組んでいる。 近年は、GPTsを活用した求人原稿作成ツールや業務支援AIを自ら開発し、飲食店、美容室、歯科医院などの生成AI活用を積極的に支援している。