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「理念じゃ飯は食えない」と考える歯科医院の院長が招くスタッフ離職の連鎖

「理念は大事だ、とよく言われるけれど、理念で飯は食えない。理念を考えている暇があれば、一人でも多くの患者さんを診て、売上を上げたい。」

多くの歯科医院の院長から、同じ言葉を聞いてきました。
確かに、その気持ちはよくわかります。

開業から数年。患者も増え、スタッフも順調に雇えている今、理念よりも大切なことがあると感じるのは当然です。

スタッフの給与、家賃、材料費——毎月の支払いは待ってくれません。
「理念で支払いができるわけじゃない」

その考えは、一見正しいように思えます。しかし私は、理念を軽視した医院がやがて直面する“崩壊のシナリオ”を何度も目の当たりにしてきました。

わかりやすさを重視するため、一部正確な法律用語や名称を用いていないことがありますので、ご了承ください。

理念を後回しにする歯科院長が直面する現実

これは、ある歯科医院の話を物語調にアレンジしたものです。

その医院は開業当初から地域で評判がよく、患者数は右肩上がり。予約は数週間先まで埋まり、院長自身も「順調だ」と感じていました。

連日、朝から夜まで治療に追われる日々。スタッフの数も増え、「理念を考える余裕なんてない」というのが正直な本音でした。

「理念? そんなことより患者さんを一人でも多く診ることのほうが大事だろう。」
そう口癖のように言っていた院長。しかし5年目に入った頃から、医院の雲行きが怪しくなり始めました。

最初に辞めたのは、入職2年目の若手衛生士でした。
「もっと自分が成長できる職場を探したいんです。」


そう言われた院長は、「最近の若い人は我慢が足りない」とため息をつきました。

ところが、1人去ったことが引き金となり、次々と退職が続きます。ベテランスタッフからも辞める人が出てきて、院長は焦り始めました。

受付では患者対応のミスが増え、待合室で不満を漏らす患者さんの声が目立つように。

「スタッフの雰囲気が悪い。これ以上ここでは働けません。」
あるスタッフから辞め際に告げられたその言葉が、院長の胸に重く響きました。

あれだけ順調だった医院が、なぜこんなことに——。

スタッフが次々と辞めていく歯科医院に共通する「理念の欠如」

スタッフが次々と辞めていく理由を「最近の若者は辛抱が足りない」と決めつけた院長は、さらなる採用活動に奔走しました。

しかし、雇ったばかりの新人たちはなかなか育たず、現場はいつもバタバタと落ち着かない状態が続きます。

「とにかく、目の前の患者さんを診ることが最優先。」
「スタッフは辞めたら、また募集すればいい。」

そんな考えのもと、日々の指示もその場しのぎになりがちでした。

ある日は「患者には必要最小限の説明をして、待ち時間を短縮して。」と言い、翌日は「もっと詳しく丁寧に説明してほしい。」と矛盾する指示が飛ぶ。

いわゆる、朝令暮改の状態でした。

この“場当たり経営”がスタッフに不信感を植え付けていきます。

「院長の言うことは、その日その日で変わる。」
「院長の指示を守ったのに、次の日には注意されるなんて。」

院内ではチームとしての一体感が失われ、スタッフ間の衝突が増加。ある日、患者さんからこんな苦情が寄せられました。

「最近、ここのスタッフはピリピリしていて居心地が悪い」

理念がない医院は、どこに向かうべきかの羅針盤を失い、徐々に軋みながら崩壊していくのです。

DH同士の仲が悪くなり、「自分だけが働くのは嫌。」と待合室で待っている患者さんを診療室に案内しないという事態にまで発展。

「理念じゃ飯は食えない」は経営の最大の誤解

冒頭でも述べましたが、院長たちが理念を後回しにするのは、ある意味当然かもしれません。

「理念に時間やお金をかけるくらいなら、患者さんを一人でも多く診たほうが売上につながる。」
「理念があってもスタッフの給料は払えない。」
「うちのスタッフは、理念になんて興味がない。」

そう考えるのは無理もないことです。理念は無形であり、その効果を数字で測るのは難しい

ROI(投資対効果)が見えない以上、院長が「もっと、余裕ができてから考えよう。」と判断してしまうのも頷けます。

しかし、理念の有無は目に見えない形で医院の経営に大きな影響をおよぼします

理念がないと、スタッフは「ここで働く意味」を見失い、日々の業務はただの作業になりがちです。

主体性が失われると、患者とのコミュニケーションも表面的なものになり、医院全体の空気が冷たく感じられるようになります。

理念は、スタッフが自ら考え、動き、医院を支えていくための“根っこ”です。それがある医院は、トラブルが起きても揺らぎません。

逆に理念のない医院は、見えない亀裂が入り、気づかぬうちに経営の土台ごと崩れていくのです。

理念は、短期的な売上を生むものではありません。しかし、理念がなければ“いずれ飯が食えなくなる”。これは机上の空論ではなく、現実です。

私はかつて、株式会社ユメオカの丹羽さんから学ばせていただきましたが、その時におっしゃっていたことが印象的でしたので、共有します。

院長の日々のモヤモヤやお困りごと、トラブルはたいてい理念が浸透していないことで起こる。

理念さえしっかり浸透していれば、それだけで、院長は日々こまかなことに気を取られることなく診療と経営に集中できる。

想像してみてください。もし、院長が診療や経営に集中できたら?それだけでも、医院の売り上げや全体の雰囲気に好影響がありそうではありませんか?

理念はスタッフの離職の連鎖による医院崩壊を防ぐ“見えない柱”

医院は、院長ひとりの力で成り立つものではありません。どれだけ腕が良くても、受付や歯科衛生士、助手が支えているからこそ、患者さんとの信頼が築かれ、経営が回っているのです。

理念のない医院では、この支えが次第に崩れていきます。

スタッフの退職が続くと、求人を出しても応募は減り、経験の浅い新人が入ってはすぐ辞めていく悪循環に陥ります。

現場は常に混乱し、院長は「辞めないスタッフを探す。」ことに追われ、治療に集中できなくなります。

そして、ある日気づくのです。「患者さんの予約が埋まらない。」「評判が落ちている。」

医院の土台が静かに崩れ、もう手遅れになりつつある現実に。

理念は、単なるお題目ではありません。医院が苦境に立たされたとき、スタッフ全員をつなぎとめ、もう一度立ち上がるための“見えない柱”です。

理念を言語化し、スタッフと共有・浸透させるために必要な時間と費用は、決して無駄や贅沢なものではない。むしろ、医院を守るための“最低限の投資”です。

気づいた時にはもう遅い。崩壊のシナリオを止められるのは、今この瞬間だけなのです。

まとめ

理念は、短期的な売上や目先の数字には直結しません。

しかし、それがない医院は、気づかぬうちに少しずつ内部から崩れていきます。スタッフは「ここで働く意味」を見失い、やがて優秀な人材から順に離れていく。

理念とは、医院の未来を守るための“見えない根”であり、スタッフと患者をつなぎとめる土台です。

いま理念を言語化し、浸透させることは、医院が5年後、10年後も地域で愛され続けるために欠かせない投資なのです。

ABOUT US
社会保険労務士×生成AI活用アドバイザー 小西朋安
小西 朋安社会保険労務士×生成AI活用アドバイザー
社労士歴19年で、元プログラマーの異色キャリア。 わかりやすい就業規則の作成・経営理念の策定・浸透支援など、職場のあり方づくりに長年取り組んでいる。 近年は、GPTsを活用した求人原稿作成ツールや業務支援AIを自ら開発し、飲食店、美容室、歯科医院などの生成AI活用を積極的に支援している。