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訪問歯科診療の直行直帰・移動時間の取り扱いと労働時間の正しい計算方法

訪問歯科診療の直行直帰・移動時間の取り扱い

歯科医院を経営されている院長先生。

訪問歯科診療を始めたいけれど、
「スタッフの直行直帰の労働時間はどう計算すればいいの?」
「移動時間は給与を支払う必要があるの?」
と、労務管理でお困りではありませんか?

訪問歯科診療では、通常の診療とは異なる労働時間管理が必要です。

特に直行直帰や移動時間の取り扱いを誤ると、労使トラブルや法令違反につながる可能性があります。

そこでこの記事では、社労士×生成AI活用アドバイザーの視点から、訪問歯科診療における労働時間管理の基本と実践方法を詳しく解説します。

この記事でわかること

  • 訪問歯科における直行直帰・移動時間の労働時間判断基準
  • 労働時間の正しい計算方法と記録の取り方
  • 労務トラブルを防ぐための就業規則整備のポイント
AI×社労士 歯科医院経営サポート

訪問歯科診療における労働時間管理の基礎知識

労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことを指します。

労働基準法では、1日8時間、1週40時間を法定労働時間の上限と定めています。この原則は訪問歯科診療においても変わりません。

重要なのは「使用者の指揮命令下にあるかどうか」という判断基準です。訪問歯科診療における移動時間や待機時間が労働時間に該当するかは、この基準によって判断されます。

歯科医院・飲食店・美容室のための労働時間・休日・休暇の基礎知識

神戸市内の歯科医院では、高齢化社会の進展により訪問歯科診療のニーズが高まっています。2024年の診療報酬改定でも訪問診療の区分が細分化され、算定範囲が拡大されました。

しかし、訪問歯科診療では院内診療と異なり、歯科医師や歯科衛生士が直行直帰することも少なくなく、労働時間の把握が困難になりがちです。

そんのため、適切な労務管理を怠ると以下のリスクが生じます。

  • 未払い残業代の発生: 移動時間を労働時間として認識せず、残業代が未払いとなる
  • 労使トラブル: 労働時間の認識にズレが生じ、スタッフとの信頼関係が損なわれる
  • 労働基準監督署の是正勧告: 法令違反として指導を受ける可能性がある

訪問歯科診療では、以下のような特有の課題があります。

  • 直行直帰の頻度が高い: 自宅から直接訪問先へ向かい、最後の訪問先から直接帰宅するケースが多い
  • 移動時間の変動: 訪問先の距離や交通状況により、移動時間が日によって大きく異なる
  • 複数施設の訪問: 1日に4~5ヶ所の施設や居宅を訪問することもある
  • 書類作成時間: 訪問後の診療記録などの作成に時間がかかる

これらの課題に対応するためには、明確な労働時間管理のルール設定と、それを実現するための仕組みづくりが不可欠です。

直行直帰における労働時間の判断基準

訪問歯科診療における移動時間が労働時間に含まれるのは、使用者の指揮命令下にあると判断される場合です。

具体的には以下のケースが該当します。

状況具体例判断
移動中に業務を行っている・患者情報の確認
・歯科医師への電話報告
・診療記録の入力作業
労働時間に含む
医院からの指示で集合場所へ向かう・医院が指定した駅やコンビニで歯科医師と待ち合わせ
・医院の車で複数スタッフが同乗移動
労働時間に含む
移動中に業務指示に対応・院長からの電話指示に対応
・患者家族からの問い合わせ対応
・ケアマネージャーとの連絡調整
労働時間に含む
訪問先間の移動・1件目の訪問先から2件目への移動
・施設から別の施設への移動
労働時間に含む

特に重要なのは、訪問先から訪問先への移動時間は、原則として労働時間に該当するという点です。これは業務の一環として行われる移動だからです。

一方、労働時間に含まれないのは、使用者の指揮命令下にないと判断される場合です。

状況具体例判断
自宅から最初の訪問先への移動・直行で自宅から患者宅へ向かう
・自宅から最初の施設へ向かう
原則、労働時間に含まない(通勤と同様)
最後の訪問先から自宅への移動・直帰で最後の患者宅から自宅へ帰る
・最後の施設から自宅へ帰る
原則、労働時間に含まない(通勤と同様)
移動を自由に使える場合・移動中に読書や睡眠
・私用の買い物に立ち寄る
・休憩のためカフェに立ち寄る
労働時間に含まない
医院からの指示がない移動・スタッフ同士で相談して決めた待ち合わせ場所への移動
・自己判断による訪問ルートの選択
労働時間に含まない

ただし、所定労働時間に満たない場合でも、実務上は所定時間働いたものとして扱うのが一般的です。

例えば、所定労働時間が8時間の場合、実労働時間が6時間でも8時間分の賃金を支払うケースが多いです。

実務では、白黒つけがたい状況も存在します。以下のような場合の対応方法をご紹介します。

  • 移動中の待機時間: 次の訪問まで時間があり、車内で待機している場合は、原則として労働時間に含めるのが安全です。
  • 自宅での書類作成: 訪問後に自宅で診療記録を作成する場合、業務指示があれば労働時間に含まれます。所定労働時間内に完了できるよう、業務量の調整が必要です。
  • 緊急の呼び出し: 休憩時間中や移動中に緊急の患者対応を指示された場合、その時間は労働時間に含まれます。

労働時間の正しい計算方法

平日に直行直帰する場合の労働時間計算方法を、具体例で解説します。

【ケース1】所定労働時間内に収まる場合

項目内容
所定労働時間9:00~18:00(休憩1時間、実働8時間)
自宅出発9:00
最初の訪問先到着9:30(診療開始)
最後の訪問先出発17:00(診療終了)
自宅到着17:30
労働時間の計算
始業時刻9:30(所定労働時間の開始時刻を適用)
終業時刻17:00(所定労働時間の終了時刻を適用)
休憩時間1時間
認定労働時間8時間(所定労働時間分を認める)
時間外労働なし

実際の訪問時間が所定労働時間より短くても、実務上は所定労働時間分(8時間)を認めるのが一般的です。

【ケース2】所定労働時間を超える場合

項目内容
所定労働時間9:00~18:00(休憩1時間、実働8時間)
自宅出発8:00
最初の訪問先到着8:30(診療開始)
最後の訪問先出発19:00(診療終了)
自宅到着19:30
労働時間の計算
始業時刻8:30(実際の診療開始時刻を適用)
終業時刻19:00(実際の診療終了時刻を適用)
休憩時間1時間
実労働時間9時間30分
所定労働時間8時間
時間外労働1時間30分(25%割増賃金が必要)

所定労働時間の開始前または終了後に訪問先で診療を行った場合、その時間は時間外労働として扱い、25%の割増賃金が必要です。

午前中は院内診療、午後は訪問診療という組み合わせのパターンです。多くの歯科医院で採用されている勤務形態です。

時刻行動労働時間の扱い
8:30医院到着・出勤始業
8:30~12:30院内で外来診療労働時間
12:30~13:30昼休憩(医院で昼食)休憩時間
13:30~14:00訪問準備(器材準備・患者情報確認)労働時間
14:00医院出発
14:00~14:30A施設へ移動労働時間(医院からの移動)
14:30~16:00A施設で診療労働時間
16:00~16:20B患者宅へ移動労働時間(訪問先間移動)
16:20~17:20B患者宅で診療労働時間
17:20~18:00医院へ戻る(直帰も可)労働時間(医院へ戻る場合)
18:00医院到着・退勤終業

労働時間の計算

項目時間
始業時刻8:30
終業時刻18:00
休憩時間1時間(12:30~13:30)
実労働時間8時間30分
内訳:所定労働時間8時間
(内訳:時間外労働30分(25%割増賃金が必要)

重要ポイント:

  • 医院から訪問先への移動は労働時間に含まれる
  • 訪問先から医院へ戻る移動も労働時間に含まれる
  • 最後の訪問先から直帰する場合、その時点で終業とする
  • 訪問準備時間も労働時間として扱う

1日に複数の施設を訪問する場合の労働時間計算例です。

時刻行動労働時間の扱い
9:30自宅を出発含まない(通勤)
10:00A施設到着・診療開始ここから労働時間
12:00A施設出発
12:15昼食(休憩)含まない(休憩時間)
13:00B施設へ移動含む(訪問先間移動)
13:30B施設到着・診療開始
16:00B施設出発
16:20C患者宅へ移動含む(訪問先間移動)
16:30C患者宅到着・診療開始
17:30C患者宅出発・帰宅ここまで労働時間
18:00自宅到着含まない(通勤)

労働時間の計算

項目時間
始業時刻10:00(A施設到着)
終業時刻17:30(C患者宅出発)
休憩時間45分(12:15~13:00)
実労働時間6時間45分
所定労働時間(8時間)適用の場合8時間として計算

訪問先間の移動時間(B施設へ13:00~13:30、C患者宅へ16:20~16:30)は全て労働時間に含まれます。

休日に訪問診療を行う場合の労働時間計算例です。

項目内容
自宅出発10:00
訪問先到着10:30(診療開始)
診療時間10:30~12:30(2時間)
訪問先出発12:30(診療終了)
自宅到着13:00
労働時間の計算
通勤時間(往復1時間)原則として労働時間に含めない
認定労働時間2時間(診療時間のみ)
休日労働手当35%割増賃金が必要

【休日の計算原則】

  • 通勤時間は原則として労働時間に含めない
  • 患者宅や施設での診療時間のみを労働時間としてカウント
  • 休日労働手当(35%割増)が必要

ただし、通勤時間が長いにも関わらず診療時間が短い場合は、通勤時間分の時給または特別手当などを加算する歯科医院もあります。

訪問歯科診療では、医療保険や介護保険の書類作成に時間がかかります。

作成場所労働時間の扱い備考
医院に戻って作成労働時間に含む明確に業務として扱う
訪問先で作成労働時間に含む診療時間の一部として扱う
移動中の車内などでの作成労働時間に含む業務の一環として扱う
自宅で作成(医院から指示あり)労働時間に含む所定労働時間内に完了できるよう業務配分を工夫すべき
自宅で作成(自主的)含まない医院からの指示がない場合

一見、自主的な自宅作成であっても、それが常態化している、どう考えても所定労働時間内に処理できないなどの事情により、労働時間となる可能性があります。

労働時間管理の実務対応

訪問歯科診療の労働時間管理を適切に行うため、就業規則に以下の事項を明記しましょう。

【記載推奨事項】

  • 直行直帰の始業・終業時刻の定義
    「直行の場合、最初の訪問先到着時刻を始業時刻とする。ただし、所定始業時刻より遅い場合は所定始業時刻とする」
  • 移動時間の取り扱い
    「訪問先から訪問先への移動時間は労働時間に含める。自宅から最初の訪問先、最後の訪問先から自宅への移動は通勤時間とする」
  • 勤怠報告の方法
    「訪問診療を行った日は、訪問日報に訪問先、到着・出発時刻、診療内容を記録し、翌営業日までに提出する」

訪問歯科診療では、事業場外みなし労働時間制の適用が検討できる場合があります。

【適用要件】

  • 事業場外で業務に従事している
  • 使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難である

ただし、現代では携帯電話やGPS機能により労働時間の把握が可能なため、事業場外みなし労働時間制の適用は困難なケースが多いと考えられます。

無理に適用しようとせず、実労働時間を適切に把握・管理する方が労務リスクを低減できます。

歯科医院では、曜日によって診療時間が異なることがあります。このような場合、1ヶ月単位の変形労働時間制の導入を検討できます。

【活用例】

  • 月曜・水曜:訪問診療日(所定労働時間9時間)
  • 火曜・木曜・金曜:外来診療日(所定労働時間7時間)
  • 1週間の平均:40時間以内

導入には就業規則への明記が必要です。社会保険労務士などの専門家に相談して、適切な制度設計を行いましょう。

変形労働時間制とは?4つの種類と基礎知識、人件費を最適化する方法
1か月単位の変形労働時間制とは?制度の基礎・残業計算をわかりやすく解説(飲食店・美容室・歯科医院向け)

労務トラブルを防ぐためのチェックリスト

訪問歯科診療を開始する前、または労務管理体制を見直す際に、以下の項目を確認しましょう。

【労務管理チェックリスト】

  • 就業規則に訪問診療時の労働時間の定義を明記している
  • 直行直帰の始業・終業時刻の判断基準が明確である
  • 移動時間の労働時間該当性について、スタッフに説明している
  • 勤怠記録の方法が確立されている(クラウドシステムまたは訪問日報)
  • 訪問スケジュールの作成時に、労働時間が適正範囲内か確認している
  • 時間外労働が発生した場合の割増賃金の計算方法が明確である
  • 休憩時間を確実に取得できる体制になっている
  • 訪問先での待ち時間の取り扱いルールがある
トラブル内容原因予防策
未払い残業代の請求訪問先間の移動時間を労働時間に含めていなかった・移動時間の取り扱いを就業規則に明記
・訪問スケジュール作成時に労働時間を試算
・定期的に実労働時間を確認
休憩時間の未取得訪問スケジュールに余裕がなく、休憩を取れない・スケジュール作成時に休憩時間を確保
・訪問先間に移動時間+休憩時間の余裕を持たせる
・スタッフからの休憩取得状況報告
勤怠記録の改ざん疑惑自己申告制で、実態と記録が乖離・GPS付きクラウド勤怠システム導入
・訪問日報と照合する仕組み
・定期的な実態調査

万が一、労働基準監督署の調査が入った場合に備え、以下の書類を整備しておきましょう。

  • 必須書類
    ・就業規則(訪問診療に関する規定を含む)
    ・労使協定書(36協定、変形労働時間制等)
    ・出勤簿または勤怠記録
    ・訪問日報
    ・賃金台帳
  • 推奨書類
    ・訪問スケジュール表
    ・労働時間管理に関する社内マニュアル
    ・スタッフへの説明記録

これらの書類を適切に保管し、いつでも提示できる状態にしておくことが重要です。

歯科医院のための労働基準監督署対策:調査に備える重要ポイント

よくある質問

訪問診療用の車両の運転時間は労働時間に含まれますか?

訪問先から訪問先への移動で運転している時間は、業務の一環として労働時間に含まれます。

ただし、自宅から最初の訪問先、最後の訪問先から自宅への移動は、原則として通勤時間として扱います。

医院からの具体的な指示で集合場所へ向かう場合は、その移動時間も労働時間に含める必要があります。

訪問スケジュールが予定より大幅に遅れた場合、どう対応すべきですか?

実際の終業時刻が所定労働時間を超えた場合、その超過分は時間外労働として25%の割増賃金を支払う必要があります。

頻繁に遅れが発生する場合は、訪問件数を見直すか、1件あたりの時間設定を長めにとるなど、スケジュール自体を改善しましょう。

スタッフの健康管理の観点からも、無理のない訪問計画が重要です。

事業場外みなし労働時間制は訪問歯科診療に適用できますか?

現在では、携帯電話やGPS機能により労働時間の把握が可能なため、事業場外みなし労働時間制の適用は困難なケースがほとんどです。

労働基準監督署から「労働時間の算定が困難とは言えない」と判断される可能性が高いため、実労働時間を適切に把握・管理する方法をお勧めします。

無理に制度を適用しようとせず、クラウド勤怠システム等で正確な記録を取りましょう。

まとめ:訪問歯科の労務管理で働きたくなる組織へ

本記事では、訪問歯科診療における直行直帰・移動時間の労働時間管理について詳しく解説しました。

重要ポイント

  • 労働時間の判断基準は「使用者の指揮命令下にあるか」
  • 訪問先間の移動時間は労働時間に含まれる
  • 就業規則への明記とクラウド勤怠システムの活用が効果的
  • スタッフとのコミュニケーションと業務効率化が成功の鍵

院長先生が、自分もスタッフも働きたくなる組織を実現するため、ぜひ本記事の内容を実践してみてください。

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社会保険労務士×生成AI活用アドバイザー 小西朋安
小西 朋安社会保険労務士×生成AI活用アドバイザー
社労士歴19年で、元プログラマーの異色キャリア。 わかりやすい就業規則の作成・経営理念の策定・浸透支援など、職場のあり方づくりに長年取り組んでいる。 近年は、GPTsを活用した求人原稿作成ツールや業務支援AIを自ら開発し、飲食店、美容室、歯科医院などの生成AI活用を積極的に支援している。