スタッフさんから「妊娠しました」という報告を受けたとき、喜ばしい反面、こんな不安を感じていませんか?
「社会保険料の免除手続きって、どうすればいいの?」
「申請書類はどこに、いつまでに出せばいいの?」
「育休が延長になったら、また手続きが必要?」
そこでこの記事では、小さな会社や歯科医院の労務管理を支援する社会保険労務士が、産前産後休業・育児休業中の社会保険料免除について詳しく解説します。
この記事でわかること
- 社会保険料免除制度の基本と歯科医院にとってのメリット
- 具体的な手続きの流れと必要書類
- 出産日変更時・育休延長時の届出方法
- よくある失敗パターンと注意点
目次
産前産後休業・育児休業中の社会保険料免除とは?
社会保険料免除制度の概要
社会保険料免除制度とは、スタッフが産前産後休業や育児休業を取得した期間中、健康保険料と厚生年金保険料の支払いが免除される制度です。
この免除は従業員負担分だけでなく、事業主負担分も対象となります。つまり、歯科医院側も保険料の負担がなくなるのです。
免除期間中も被保険者資格は継続されるため、健康保険証は通常どおり使用できます。
また、将来受け取る年金額にも影響はありません。免除された期間も保険料を納付したものとして扱われるため、年金額が減ることはないのです。
歯科医師国保については、加入している歯科医師国保ごとに、減額・免除制度などがありますので、現在加入している歯科医師国保でご確認ください。
免除期間の計算方法
社会保険料の免除期間は、以下のように計算されます。
産前産後休業の場合
- 産前休業:出産予定日以前42日(多胎妊娠は98日)
- 産後休業:出産日の翌日から56日
免除される月の範囲
休業開始月から、休業終了日の翌日が属する月の前月までが免除対象です。ただし、休業終了日が月末の場合は、その月まで免除されます。
例えば、5月11日に産前休業を開始し、8月16日に産後休業が終了する場合、免除期間は5月〜7月の3ヶ月間となります。
出産日が予定日と異なる場合
- 予定日より早く出産した場合:
実際の出産日から遡って42日間(多胎妊娠の場合は98日間)のうち、休業していた期間(欠勤のほか、有給休暇でも可)を産前休業として申請することが可能。
産後休業は、出産日の翌日から56日。
- 予定日より遅く出産した場合:
出産予定日から実際の出産日までの日数が産前休業期間に加算されます。産前休業が延長されても、産後休業期間が短縮されることはありません。
出産前に、「産前産後休業取得者申出書」(後述)を提出していて、実出産日と予定日が異なった場合は、「産前産後休業取得者変更(終了)届」を速やかに提出する必要があります。
育児休業の場合
法律で定められた育休業が取得できる期間
- 原則:産後休業終了日の翌日から子どもが1歳となる日の前日まで
- 1歳2か月までの延長:父母ともに育児休業を取得する場合(パパ・ママ育休プラス)
- 1歳6か月までの延長:保育所に入所できない等の理由がある場合
- 2歳までの延長:1歳6か月の時点で保育所に入所できない等の理由がある場合
- 3歳までの延長:医院が独自で3歳までの育児休業制度を設けている場合
免除される月の範囲
免除される期間は、実際にスタッフが育児休業を開始した月から、休業終了日の翌日が属する月の前月までです。(休業終了日が月末の場合はその月まで。)
同月内に開始・終了する場合:
同月内に14日以上の育児休業を取得した場合は、その月の保険料が免除されます。
例えば、8月10日から8月25日まで育児休業を取得した場合、休業期間は16日間となり「14日以上」の条件を満たすため、8月分の保険料が免除されます。
賞与に対する社会保険免除
賞与に係る社会保険料は、1ヶ月を「超える」育児休業を取得している場合に免除対象となります。ちょうど1ヶ月では免除されません。
歯科医院にとっての3つのメリット
この制度を正しく活用することで、歯科医院には以下のメリットがあります。
- 経費削減効果:事業主負担分の社会保険料が免除されるため、休業期間中のコスト負担が軽減されます。
- スタッフの定着率向上:産休・育休制度を適切に運用することで、スタッフの安心感が高まり、復帰後の定着につながります。
- 採用力の強化:産休・育休の取得実績がある歯科医院は、求人において大きなアピールポイントになります。歯科衛生士不足が深刻な昨今、この点は非常に重要です。
社会保険料免除の具体的な手続き方法
産前産後休業の手続き
産前産後休業の社会保険料免除を受けるには、「健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書」を提出します。
- 提出先:事業所を管轄する年金事務所または事務センター
- 提出期限:産前産後休業期間中、または休業終了日から1ヶ月以内
- 提出方法:電子申請(e-Gov)、郵送、年金事務所窓口への持参
申出書は日本年金機構のウェブサイトからPDFまたはExcel形式でダウンロードできます。添付書類は原則不要です。
出産日が予定日と異なった場合の変更届
出産前に申出書を提出していて、実際の出産日が予定日と異なった場合は、「産前産後休業取得者変更(終了)届」の提出が必要です。
- 届出書類:健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届(申出書と同じ用紙)
- 記入箇所:共通記載欄と「A.変更」欄に変更後の出産年月日と休業期間を記入
- 提出時期:出産日確定後、速やかに提出
変更届を提出しないと、免除期間が正しく適用されません。出産報告を受けたら、すぐに変更届の要否を確認しましょう。
実務的には、出産日以後に産前産後休業取得者申出書を提出することで手続きが一度で済みます。
産後休業を予定より早く終了する場合
医師の許可を得て産後6週間経過後に復職する場合など、届け出た終了予定日より前に産後休業を終了する場合は、終了届の提出が必要です。
- 届出書類:健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届
- 記入箇所:共通記載欄と「B.終了」欄に実際の終了年月日を記入
- 提出時期:終了後速やかに提出
育児休業の手続き
育児休業の社会保険料免除を受けるには、「健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書」を提出します。
対象となる期間
- 子が1歳(1歳2か月)になるまでの育児休業
- 保育所に入れない等の場合は1歳6か月~2歳まで延長可能
- 3歳未満の子を養育するための休業(医院独自の育児休業制度がある場合)
提出期限:育児休業期間中、または休業終了日から1ヶ月以内
育児休業は分割取得が可能です。複数回に分けて取得する場合は、取得のたびに申出書の提出が必要です。
育児休業を延長する場合の手続き
保育所に入所できない等の理由で育児休業を延長する場合、延長のたびに申出書の提出が必要です。
社会保険料免除の4つの区分
育児休業の社会保険料免除には、以下の4つの区分があります。それぞれの区分ごとに申出書の提出が必要です。
- 区分A:子が1歳(1歳2か月)に達するまでの育児休業
- 区分B:子が1歳から1歳6か月に達するまでの育児休業
- 区分C:子が1歳6か月から2歳に達するまでの育児休業
- 区分D:子が1歳(または1歳6か月、2歳)から3歳に達するまでの育児休業に準ずる休業
重要:1歳から1歳6ヶ月に延長する場合と、1歳6ヶ月から2歳に延長する場合、それぞれ申出書を提出しないと免除期間が延長されません。
延長手続きの具体的な流れ
- 1歳→1歳6か月への延長:
スタッフから延長の申し出を受ける(1歳の誕生日の2週間前まで)
→「育児休業等取得者申出書」を提出(区分B) - 1歳6か月→2歳への延長:
スタッフから延長の申し出を受ける(1歳6か月になる2週間前まで)
→「育児休業等取得者申出書」を提出(区分C)
3歳までの延長の場合も同様に手続きが必要です。
延長の条件と必要書類
育児休業を延長するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 子が1歳(または1歳6か月)に達する日において、本人または配偶者が育児休業中であること
- 保育所等に入所できない、または養育予定者が死亡・けが・病気等で養育困難になった等の事情があること
3歳までの延長は、法定を上回る制度のため、上記のような条件は不要です。
育児休業を予定より早く終了する場合
保育所に入所できた等の理由で、届け出た終了予定日より前に育児休業を終了する場合は、「育児休業等取得者終了届」の提出が必要です。
- 届出書類:健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書(新規・延長)/終了届
- 記入箇所:共通記載欄と「B.終了」欄に実際の終了年月日を記入
- 提出時期:終了後速やかに提出
終了届を提出しないと、免除期間が正しく計算されません。ただし、届け出た終了予定日どおりに終了する場合は、終了届の提出は不要です。
手続きの流れ
- ステップ1:妊娠報告を受ける
スタッフから妊娠の報告を受けたら、休業予定日や復帰予定を確認します。 - ステップ2:産前休業開始
出産予定日の6週間前から産前休業が可能です。休業開始後、「産前産後休業取得者申出書」を提出します。 - ステップ3:出産日の確認と変更届
出産予定日と実際の出産日が異なる場合は、「産前産後休業取得者変更(終了)届」を速やかに提出します。 - ステップ4:育児休業開始
産後休業終了後、育児休業に入る場合は「育児休業等取得者申出書」を提出します(区分A:1歳まで)。 - ステップ5:育児休業の延長(必要な場合)
1歳時点で保育所に入所できない場合は、「育児休業等取得者申出書」を再提出します(区分B:1歳6か月まで)。
1歳6か月時点でも入所できない場合は、さらに再提出します(区分C:2歳まで)。 - ステップ6:復帰
予定より早く復帰する場合は「育児休業等取得者終了届」を提出します。
社労士が教える歯科医院の労務管理ポイント
よくある失敗パターンと対策
失敗1:申出書の提出忘れ
産休・育休の手続きは自動的には行われません。申出書を提出しないと、社会保険料は通常どおり徴収されます。
→ 対策:スタッフから妊娠報告を受けた時点でチェックリストを作成し、手続き漏れを防ぎましょう。
失敗2:出産日変更時の届出漏れ
出産予定日と実際の出産日がずれた場合、変更届の提出を忘れがちです。これを怠ると、免除期間が正しく適用されません。
→ 対策:出産報告を受けたら、すぐに変更届の要否を確認する習慣をつけましょう。
失敗3:育休延長時の申出書提出忘れ
育休を1歳6か月や2歳まで延長する場合、それぞれの時点で申出書の提出が必要です。延長手続きを忘れると、免除期間が延長されません。
→ 対策:子どもの1歳の誕生日の1か月前頃に、スタッフに保育所の入所状況を確認し、延長手続きの要否を把握しましょう。
失敗4:期限超過による追加書類の発生
休業終了日から1ヶ月を超えて申出書を提出する場合、理由書や出勤簿などの添付書類が必要になります。
→ 対策:休業が決まったら、できるだけ早めに申出書を提出することが重要です。
歯科医院特有の注意点
- 歯科医師国保加入者の場合:歯科医師国保に加入している場合、保険料免除の制度が協会けんぽとは異なります。事前に確認が必要です。
- 少人数医院での人員配置:歯科衛生士が1〜2名の小規模医院では、産休・育休中の人員確保が課題です。パートスタッフの増員や業務分担の見直しを早めに検討しましょう。
- 患者さんへの引き継ぎ:担当制を導入している医院では、産休に入る前に患者さんへの説明と後任への引き継ぎを丁寧に行うことが、信頼関係の維持につながります。
復帰後の給与減少による月額変更届
育児休業から復帰後、時短勤務などで給与が下がった場合は、「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出することで、社会保険料を実際の給与に見合った金額に変更できます。
この届出により、復帰後の手取り額の減少を緩和できます。通常の月額変更(随時改定)の要件を満たさなくても改定が可能な点がポイントです。
「養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出することで、標準報酬月額が下がった場合でも、従前の報酬月額とみなすことができ、将来の年金額の計算は、従前の報酬月額に基づいて行われます。
社会保険料免除についてよくある質問
まとめ:適切な手続きで医院とスタッフ双方にメリットを
本記事では、産前産後休業・育児休業中の社会保険料免除について詳しく解説しました。
重要ポイント
- 社会保険料免除は従業員・事業主双方の負担分が対象
- 申出書の提出は自動ではなく、事業主が行う必要がある
- 出産日が予定と異なる場合は変更届が必要
- 育休延長時は、その都度申出書の提出が必要(4区分それぞれ)
- 休業終了日から1ヶ月以内の提出が望ましい
歯科医院の皆様が、この制度を正しく活用し、スタッフが安心して働ける環境づくりを実現されることを願っています。
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