スタッフ10人未満で歯科医院を経営されている院長先生。
「うちは10人未満だから、就業規則は必要ないでしょ?」
「作った方がいいとは聞くけど、正直ハードルが高い…」
「もっと手軽に始められる方法はないの?」
このようなお悩みをお持ちではありませんか?
確かに、労働基準法では10人未満の事業場に就業規則の作成義務はありません。
しかし、就業規則がないことで実際に労務トラブルが起きているケースは少なくないのが現状です。
そこでこの記事では、社労士×生成AI活用アドバイザーが、「いきなり就業規則はハードルが高い」という院長先生に向けて、まず「ルールブック」という選択肢から始める方法を詳しく解説します。
この記事でわかること
- 10人未満の歯科医院でも就業規則が必要な理由
- 「就業規則」と「ルールブック」の違いと使い分け
- 小規模歯科医院がまず取り組むべき具体的なステップ
目次
就業規則の基礎知識
就業規則とは?
就業規則とは、労働時間・賃金・休日などの労働条件や、職場で守るべきルールを定めた文書です。
労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。
違反した場合は30万円以下の罰金が科される可能性があります。
ここでいう「10人」には、パート・アルバイトのスタッフさんも含まれます。院長先生ご自身は含まれません。
就業規則は10人未満なら本当に不要?
法律上は「作成義務なし」です。しかし、義務がないことと、必要がないことは全くの別問題です。
厚生労働省の発表によると、令和6年度の総合労働相談件数は約120万件で、5年連続で120万件を超えています(出典:厚生労働省「令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)。
さらに、帝国データバンクの調査では、2025年の歯科医院の倒産は25件と報告されています(出典:帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)」)。
労務トラブルによる経営の不安定化が廃業の一因となるケースもあり、小規模医院こそルールの整備が大切です。
労使トラブルの防止だけでなはく、就業規則には院長先生のスタッフさんの管理を効率化し、負担を”ラク”にする効果もあります。(詳しくはこちらの記事をご覧ください。)
就業規則がないと起こりうる3つのトラブル
では、実際に就業規則がない歯科医院ではどのようなトラブルが起きるのでしょうか。ここでは代表的な3つのケースをご紹介します。
トラブル①:固定残業代が無効になる
歯科医院では、「残業代込みで月○万円」と口頭で伝えているケースがあります。
しかし、就業規則や雇用契約書に固定残業代の詳細が記載されていないと、法的に無効と判断される可能性があります。
無効になった場合、過去3年分の未払い残業代を請求されるリスクがあります。スタッフさん1人あたり数十万円〜100万円を超えるケースも珍しくありません。
トラブル②:問題のあるスタッフに対応できない
無断欠勤を繰り返すスタッフさんや、患者さんへの対応に問題のあるスタッフさんがいた場合、就業規則がなければ懲戒処分を行う根拠がありません。
「注意したいけど、何を根拠に注意すればいいのかわからない」。このような状況に陥り、真面目に働いているスタッフさんのモチベーションが下がってしまうこともあります。
懲戒処分には、罪刑法定主義の考え方が用いられます。予め「どのような行為を行った場合に、どんな処分をしますよ。」と明文化していないと、懲戒処分ができないことになります。
トラブル③:退職時にもめる
「退職は何日前までに申し出るべきか」「有給休暇の消化はどうするか」「引き継ぎのルールは」。これらが曖昧なまま放置されていると、退職時に大きなトラブルへ発展するケースがあります。
特に歯科医院では、歯科衛生士さんの退職は患者さんの予約にも影響するため、引き継ぎ期間の確保は非常に重要です。ルールがないと、突然の退職にも対応できない状態になってしまいます。
「ルールブック」というもう一つの選択肢
ここまで読んで、「就業規則を作らないといけないのはわかったけど、やっぱりハードルが高い…」と感じた院長先生もいらっしゃるかもしれません。
そんな院長先生にまず検討していただきたいのが、「ルールブック」という選択肢です。
ルールブックとは?
ルールブックとは、今は口頭や習慣で院内ルールとなっていることを、スタッフさんにわかりやすい言葉でまとめたルール集で、就業規則の簡易版と言える存在です。
就業規則そのものではありませんが、「ルールが明文化されていない状態」から脱却するための第一歩として非常に有効です。
ルールブックと就業規則との違い(比較表)
ルールブックと就業規則の違いをまとめると、以下の表のようになります。
| 項目 | 就業規則 | ルールブック |
|---|---|---|
| 法的な位置づけ | 労働基準法に基づく正式文書 | 院内の運用ルール集 |
| 作成の義務 | 10人以上で義務 | 義務なし |
| 届出 | 労働基準監督署へ届出(10人未満は不要) | 届出不要 |
| 分量の目安 | 30〜50ページ程度 | 5〜10ページ程度(目安) |
| 記載内容 | 法定必要記載事項を網羅 | 医院で特に重要な項目に絞る |
| 法的拘束力 | あり(周知が条件) | 限定的(周知は必要) |
| 作成費用の目安 | 15万円〜40万円程度 | 5万円〜15万円程度 |
ルールブックの3つのメリット

- 作成のハードルが低い:分量が少なく、専門用語を使わずに作成できるため、院長先生自身でも取りかかりやすいです。
- スタッフさんに伝わりやすい:法律用語ではなく、日常の言葉で書かれているため、スタッフさんが実際に読んで理解しやすい内容にできます。
- 就業規則への段階的な移行がしやすい:ルールブックで運用しながら課題を把握し、その後に本格的な就業規則を作成するという段階的なアプローチが取れます。
就業規則には掲載しにくい、イラストや図、表などを使ってわかりやすくルールを説明できるのもルールブックの良いところです。
※就業規則にイラストや図表を掲載することは法的に禁止されてはいません。
当事務所では、就業規則にも図表を活用することで、「わかりやすい就業規則」の作成を行っています。
ルールブックでカバーできること・できないこと
ルールブックは院内でルールを共有するうえで非常に有効なツールですが、万能ではありません。ルールブックがカバーできる範囲とできない範囲を正しく理解しておきましょう。
| ✅ ルールブックでカバーできること | ❌ ルールブックではカバーしにくいこと |
|---|---|
| 勤務時間・休日の基本ルールの明文化 | 固定残業代制度の法的な有効性の確保 |
| 退職時の届出ルールや引き継ぎ方法 | 変形労働時間制の法的な導入要件 |
| 服務規律(身だしなみ、患者対応の基準) | 懲戒処分の法的根拠としての効力 |
| 欠勤・遅刻の届出方法の統一 | 助成金申請の要件としての就業規則 |
| 貸与物品の扱いや返却ルール | 労働基準監督署への届出が必要な事項 |
前述の3つのトラブルのうち、「②問題のあるスタッフへの対応」や「③退職時のトラブル」はルールブックでもある程度予防できます。
カバーしにくことに記載した事項については、100%効果がないとまでは言い切れませんが、リスクはあります。
そのため、ルールブックは「今すぐできるトラブル予防策」であり、同時に「就業規則の必要性を見極めるための準備期間」として位置づけるのがおすすめです。
ルールブックに盛り込むべき7つの項目
歯科医院のルールブックには、以下の7項目を盛り込むことをおすすめします。
| 項目 | 記載内容の例 | 重要度 |
|---|---|---|
| ①勤務時間・休憩 | 始業・終業時刻、休憩時間のルール | ★★★ |
| ②休日・休暇 | 週休日、年末年始休暇、有給休暇の申請方法 | ★★★ |
| ③給与・手当 | 給与の支払日、手当の種類と金額の考え方 | ★★★ |
| ④服務規律 | 身だしなみ、患者さんへの対応、個人情報の取扱い | ★★★ |
| ⑤退職時のルール | 退職届の提出期限、引き継ぎの方法 | ★★★ |
| ⑥欠勤・遅刻の届出方法 | 連絡先、連絡のタイミング、無断欠勤の扱い | ★★☆ |
| ⑦貸与物品の扱い | 制服・シューズなどの貸与と返却ルール | ★☆☆ |
特に①〜③と⑤は、トラブルが起きやすい項目です。まずはこの4つだけでも明文化しておくと、院長先生の安心感が大きく変わります。
ルールを明文化しておくことで、”根拠”ができます。口頭や慣習だけでは、根拠になりにくいです。
社労士が教える「ルールブック→就業規則」へのステップ
[ここにステップ図を挿入]
ステップ1:現状の労働条件や改善したい事項を書き出す
現在の医院の労働条件を書き出す、始業・終業時刻、休憩時間、休日、給与の内訳(基本給と手当の区分と支給基準)などを整理します。
この段階で「そもそも明確に決まっていないこと」が見つかれば、それがトラブルの芽です。
また、この段階で今後改善していきたいことも書き出します。例えば、遅刻が多い、医院の備品を大切に扱っていないなど、日ごろ院長先生が気になっていることをピックアップします。
ルールは何かを改善するために作成するという一面もあります。ですので、しっかりと何を改善したいのかを言語化しておきましょう。
ステップ2:ルールブックを作成する
書き出した内容をもとに、ルールを作成し、ルールブックにしていきます。まずは、A4用紙5〜10枚程度のボリュームで十分です。
おすすめは、各ルールを作った目的も記載することです。「何のために」このルールがあるのかを明示することで、そのルールに対しての納得感がアップします。
ステップ3:スタッフさんに共有し、運用を始める
作成したルールブックは、スタッフさんに配布し、内容を説明しましょう。休憩室への掲示やクラウドでの共有も有効です。
ルールブックを共有する過程で、スタッフさんから「ここはどういう意味ですか?」という質問が出てくることがあります。この対話が、より良い医院づくりにつながっていきます。
ルールブックは、定期的に実態と乖離していないか、ルールの目的は達成できているか、スタッフさんからの意見や要望はあるか、などを確認して、より良いものに更新していきます。
ステップ4:正式な就業規則へ移行する
ルールブックで運用を始めたら、次のようなタイミングで正式な就業規則への移行を検討しましょう。
- スタッフさんが増えて10人に近づいたとき:法的義務が発生する前に準備しておくことで、慌てずに対応できます。
- 固定残業代や変形労働時間制を導入したいとき:これらの制度は就業規則への記載が必要な場合があります。社労士への相談をおすすめします。
- 助成金の申請を検討しているとき:キャリアアップ助成金など、就業規則の整備が申請要件となっている助成金があります。
なお、厚生労働省は「モデル就業規則(令和7年12月版)」を公開しています(出典:厚生労働省「モデル就業規則について」)。
自院で作成する際の参考になりますが、実態に合わせたカスタマイズは必要です。
歯科医院の就業規則・ルールブックでよくある質問
まとめ:まずはルールブックから、働きたくなる医院づくりを
この記事では、10人未満の歯科医院における就業規則の必要性と、「ルールブック」から始めるという選択肢について解説しました。
重要ポイント
- 10人未満でも就業規則がないことで生じるリスクは大きく、未払い残業代請求や退職トラブルにつながる可能性があります。
- いきなり就業規則のハードルが高いと感じる場合は、簡易版の「ルールブック」から始めるのが現実的な選択です。
- ルールブックでカバーできること・できないことを理解し、段階的に正式な就業規則へ移行することで、無理なく労務管理の体制を整えられます。
院長先生が自分もスタッフも働きたくなる組織をつくる第一歩は、医院のルールを「見える化」することから始まります。ぜひ、この記事をきっかけに取り組んでみてください。
歯科医院の就業規則について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
【実例】就業規則導入で残業代トラブルを事前回避した歯科医院のケース
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