小規模な歯科医院を経営されている院長先生。
「就業規則って必要なのかな?」
「でも、いきなり作るのはハードルが高い…。」
「まずは最低限必要なルールだけでいいんだけど、何を書けばいいの?」
このようなお悩みをお持ちではありませんか?
前回の記事では、「就業規則のハードルが高いなら、まずはルールブックから始めましょう」という選択肢をご紹介しました。
そこで今回は、社労士×生成AI活用アドバイザーの視点から、院内ルールブックに「最低限これだけは入れておきたい」項目の具体的な内容と書き方を詳しく解説します。
この記事でわかること
- 院内ルールブック(簡易就業規則)の位置づけと役割
- 最低限入れるべき7つの項目と具体的な書き方
- 項目ごとの優先度とトラブル予防のポイント
目次
ルールブックとは?基礎知識を確認
ルールブックの定義と就業規則との違い
ルールブックとは、医院で働くうえでの基本的なルールを、スタッフさんにわかりやすい言葉でまとめた文書です。
就業規則の「簡易版」と考えていただけるとイメージしやすいと思います。
就業規則は労働基準法第89条に基づく正式な文書で、30〜50ページ程度の分量が一般的です。一方、ルールブックはA4用紙5〜10枚程度で、医院にとって特に重要な項目に絞って作成します。
法的な届出義務もないため、院長先生ご自身でも取りかかりやすいのが特徴です。
ルールブックは法的な届出義務はありませんが、その内容は労働基準法等の法律の範囲内でなければなりません。
なぜルールブックが必要なのか?4つのメリット

「うちは少人数だから、口頭で伝えれば十分(雇用契約書があるから十分)」と思われるかもしれません。しかし、全体的なルールを明文化することには大きな意味があります。
1.院長先生のストレスや負担が軽減する
全体的なルールが明文化されていないと、気が付くと個別のルールがたくさん生まれてしまい日々のスタッフさんの管理が複雑になってしまいす。
院長先生が良かれと思って、
「○○さんは、この対応で。」
「△△さんは、こうしたいと言っているから。」
などと、スタッフさんごとに個別のルールを設けていくと、
スタッフさんから、
「なんで、□□さんだけいいんですか?」
「前は違うことおっしゃってましたよ。」
「じゃあ、これもいいんですよね。」
と言った声があがるようになり、院長先生の負担が増し、ストレスも抱えることなります。
「うちは人数が少ないから」と思っていても、知らず知らずのうちに様々なルールが増えてしまうものです。しかもそれは暗黙のルールとなり、後から変えるのは非常に労力がかかります。
2. トラブルの予防になる
厚生労働省の発表によると、令和6年度の総合労働相談件数は約120万件で、5年連続で120万件を超えています(出典:厚生労働省「令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)。
退職時のルールや給与の計算方法が曖昧なまま放置されていると、小規模な医院でもトラブルに発展する可能性があります。
ルールを明文化しておくことで、「言った・言わない」の争いを防ぐことができます。
3. スタッフさんの安心感につながる
「休みの取り方がわからない」「これは誰に聞けばいいんだろう」
こうした小さな不安が積もると、スタッフさんのモチベーション低下や離職につながります。ルールが目に見える形になっているだけで、安心して働ける環境が生まれます。
4. 就業規則への移行がスムーズになる
ルールブックで運用を始めると、「ここはもっと細かく決めた方がいい」であったり、「ルールブック内のルールだけでは対応できない」といった課題が見えてきます。
その時は、正式な就業規則を作成するタイミングとなりますが、ルールブックで下地となるルールが決まっているので、就業規則の作成がスムーズに行えます。
ルールブックの位置づけを正しく理解する
ここで一つ大切なことをお伝えします。
ルールブックは就業規則の「代わり」ではありません。就業規則に至るまでの「過程」という位置づけです。
最終的には、就業規則・ルールブック・コンセプトブック(理念や価値観をまとめた文書)の3つが揃っている状態が理想です。
とは言え、小規模な歯科医院さんでは、いきなり就業規則を作成するのはハードルが高い場合がありますので、まずはルールブック(またはコンセプトブック)から進めていくのがおすすめです。
最低限入れておきたい7つの項目と具体的な書き方
ここでは、ルールブックに最低限盛り込んでおきたい7つの項目を、優先度とあわせてご紹介します。
なお、この7項目は、就業規則の「絶対的必要記載事項」(労働基準法第89条で必ず記載が求められる事項)を参考に、歯科医院の現場で特にトラブルが起きやすい項目を厳選したものです。
7項目の全体像(一覧表)
| 項目 | 記載内容の例 | 優先度 |
|---|---|---|
| ①勤務時間・休憩 | 始業・終業時刻、休憩時間のルール | ★★★ |
| ②休日・休暇 | 週休日、年末年始、有給休暇の申請方法 | ★★★ |
| ③給与・手当 | 給与支払日、手当の種類と基準 | ★★★ |
| ④服務規律 | 身だしなみ、患者対応、個人情報の取扱い | ★★★ |
| ⑤退職時のルール | 退職届の提出期限、引き継ぎ方法 | ★★★ |
| ⑥欠勤・遅刻の届出方法 | 連絡先、連絡のタイミング、無断欠勤の扱い | ★★☆ |
| ⑦貸与物品の扱い | 制服・シューズなどの貸与と返却ルール | ★☆☆ |
それでは、各項目を詳しく見ていきましょう。
①勤務時間・休憩(優先度:★★★)
勤務時間と休憩は、就業規則でも「絶対的必要記載事項」に含まれる最重要項目です。
書くべき内容
- 始業時刻と終業時刻(午前診・午後診がある場合はそれぞれ)
- 休憩時間の長さと取得のタイミング
- 残業が発生する場合の基本的な考え方
歯科医院ならではのポイント
歯科医院は午前診と午後診の間に長めの休憩を挟むケースが多いです。この中休みの時間帯に、院内清掃やミーティングへの参加を求める場合は「労働時間」に該当する可能性が非常に高いです。
休憩時間には業務指示を出さないことが原則ですので、その点を明確にしておくことが大切です。
休憩時間中は電話がつながらないようにしている医院さんが多いですが、もし、休憩時間中に電話対応をしてもらう場合は、労働時間に該当します。
②休日・休暇(優先度:★★★)
休日と休暇の違いを明確にしておくことが重要です。
書くべき内容
- 毎週の休診日(例:木曜・日曜・祝日)
- 年末年始やお盆などの休暇の期間
- 年次有給休暇の申請方法と申請期限
歯科医院ならではのポイント
歯科医院では、患者さんの予約状況に影響するため、有給休暇の申請タイミングがトラブルになりやすい項目です。
「有給休暇は原則〇日前までに申請」といった基準を設けておくと、スタッフさんも院長先生も安心できます。
申請期限はあくまで「円滑な運営のためのお願い」であり、法的に取得を拒否することはできない点にご注意ください。
③給与・手当(優先度:★★★)
賃金に関する事項も、就業規則の絶対的必要記載事項の一つです。お金に関することは最もトラブルになりやすい項目と考えられます。
書くべき内容
- 給与の締め日と支払日
- 支払方法(銀行振込など)
- 基本給と各種手当の区分(資格手当、皆勤手当など)
- 残業代の計算方法
歯科医院ならではのポイント
資格手当や昇給基準など、「なぜこの手当が支給されるのか」「どうすれば昇給するのか」を明示しておくと、スタッフさんの働く意欲にもつながります。
なお、固定残業代(みなし残業代)を導入している場合は、ルールブックだけでは法的な有効性を確保しにくい場合があります。
固定残業代を適法に運用するためには、就業規則や雇用契約書での明記が必要とされていますので、社労士への相談をおすすめします。
④服務規律(優先度:★★★)
服務規律とは、職場で守るべきマナーやルールのことです。歯科医院は患者さんと直接接する職場のため、特に重要度が高い項目です。
書くべき内容
- 身だしなみの基準(髪色、ネイル、アクセサリーなど)
- 患者さんへの言葉遣いや対応の基本方針
- 個人情報(カルテ情報など)の取扱いルール
- SNSへの投稿に関する注意事項
歯科医院ならではのポイント
歯科医院では患者さんのプライベートな情報や診療記録を取り扱います。そのため、個人情報の取扱いには特に慎重さが求められます。
そのため、具体的な「電子機器の取り扱い方」、「患者さんとの話し方」など、具体的な行動レベルで記載しておくことをおすすめします。
服務規律は、院長先生が「こういう医院でありたい」という想いを反映しやすい項目でもあります。
ルールの背景にある「なぜ」を一緒に書いておくと、スタッフさんの納得感が大きく変わります。
⑤退職時のルール(優先度:★★★)
退職に関する事項は、最もトラブルになりやすい項目の一つです。
書くべき内容
- 退職届の提出期限(例:退職日の30日前まで)
- 引き継ぎの方法と期間の目安
- 貸与物品の返却手続き
- 退職時の有給休暇消化に関する考え方
歯科医院ならではのポイント
歯科衛生士さんが退職すると、担当していた患者さんの予約調整が必要になります。引き継ぎ期間を確保するためにも、退職届の提出期限は余裕をもって設定しておきたいところです。
ただし、法律(民法627条1項)では、退職の意思表示から2週間で退職が成立します。
そのため、ルールブックに「30日前まで」と記載しても、法的にはあくまでお願いの範囲となります。
この点を理解したうえで、「引き継ぎのために30日前までに届け出てください。」のような表現にしておくと、双方にとって納得感のあるルールになります。
⑥欠勤・遅刻の届出方法(優先度:★★☆)
急な欠勤や遅刻の際の連絡方法を決めておくことで、朝のバタバタを減らせます。
書くべき内容
- 連絡先(誰に連絡するか)
- 連絡手段(電話・LINEなど)
- 連絡のタイミング(始業の何分前まで)
- 無断欠勤が続いた場合の対応
歯科医院ならではのポイント
少人数の歯科医院では、1人の欠勤が診療体制に大きく影響します。「始業30分前までに院長に電話連絡」のように、具体的な基準を決めておくと、スタッフさんも迷わずに行動できます。
最近はLINEなどチャットでの連絡も一般的になっていますが、緊急性の高い連絡は電話が望ましいなど、連絡手段の優先順位も明確にしておくとよいでしょう。
若い世代を中心に電話を嫌う人が増えているため、「LINEでもいいので、必ず連絡してください。」としておくと、スタッフさんの心理的ハードルを下げることができます。
⑦貸与物品の扱い(優先度:★☆☆)
優先度は低めですが、退職時にトラブルになることがある項目です。
書くべき内容
- 貸与する物品のリスト(制服、シューズ、ロッカーの鍵など)
- 退職時の返却ルール
- 紛失・破損した場合の取扱い
制服やシューズの費用負担をどうするか(医院負担か自己負担か)、退職時に返却が必要かどうかを事前に決めておくと、退職手続きがスムーズに進みます。
ルールブック作成時のよくある誤解と注意点
よくある誤解と正しい理解
ルールブックを作成する際に、院長先生が陥りやすい誤解があります。
❌ 間違い:ルールブックがあれば就業規則は不要
✅ 正解:ルールブックはあくまで就業規則に至るまでの第一歩です。固定残業代の法的有効性の確保や、変形労働時間制の導入、助成金の申請などには正式な就業規則が必要になる場合があります。
❌ 間違い:項目を多くすればするほど安心
✅ 正解:ルールが多すぎると形骸化してしまいます。大切なのは、医院の実態に合った、本当に守るべき最小限のルールを明確にすることです。まずは7項目程度から始めて、運用しながら必要に応じて追加していくアプローチをおすすめします。
❌ 間違い:一度作ったら完成
✅ 正解:組織は変化します。ルールも定期的に見直さなければ、実態と乖離して形骸化します。半年〜1年に一度は見直す機会を設けることをおすすめします。
ルールブックでカバーできること・できないこと
ルールブックは万能ではありません。カバーできる範囲とできない範囲を正しく理解しておきましょう。
| ✅ カバーできること | ❌ カバーしにくいこと |
|---|---|
| 勤務時間・休日の基本ルールの明文化 | 固定残業代制度の法的な有効性の確保 |
| 退職時の届出ルールや引き継ぎ方法 | 変形労働時間制の法的な導入要件 |
| 服務規律の統一 | 懲戒処分の法的根拠としての効力 |
| 欠勤・遅刻の届出方法の統一 | 助成金申請の要件としての就業規則 |
| 貸与物品の返却ルール | 労働基準監督署への届出が必要な事項 |
カバーしにくい事項については、100%効果がないとまでは言い切れませんが、リスクがあることは認識しておく必要があります。
社労士が教えるルールブック作成の労務管理ポイント
ルールの「目的」を必ず添える
ルールブックを作る際に最も大切なことは、各ルールに「なぜこのルールがあるのか」という目的を添えることです。
たとえば、「退職届は30日前までに提出してください」だけでなく、「患者さんの予約調整と、後任スタッフへの引き継ぎを確実に行うためです」と目的を添えるだけで、スタッフさんの受け取り方が大きく変わります。
ルールはスタッフさんを「縛るもの」ではなく、相互信頼を守り、自然体で働ける環境をつくるための約束事です。その想いが伝わるルールブックを目指しましょう。
スタッフさんとの「対話」を大切にする
ルールブックは院長先生が一方的に作るものではありません。作成する過程でスタッフさんの意見を聞くことで、より現場の実態に即した内容になります。
共有した後も、「ここはわかりにくい」「こういうルールもあった方がいい」という声が出てくるかもしれません。この対話そのものが、チームとしての信頼関係を育む機会になります。
正式な就業規則への移行タイミング
ルールブックで運用を始めたら、次のようなタイミングで正式な就業規則への移行を検討しましょう。
- スタッフさんが10人に近づいたとき:労働基準法の作成義務が発生する前に準備しておくと、慌てずに対応できます。
- 固定残業代や変形労働時間制を導入したいとき:これらの制度は就業規則への記載が必要とされています。
- 助成金の申請を検討しているとき:キャリアアップ助成金など、就業規則の整備が申請要件となっている助成金があります。
なお、厚生労働省は「モデル就業規則(令和7年12月版)」を公開しています(出典:厚生労働省「モデル就業規則について」)。自院で作成する際の参考になりますが、歯科医院の実態に合わせたカスタマイズは必要です。
こちらの記事では、モデル就業規則を自医院向けに作り変えるための解説をしていますので、就業規則の作成を検討されておられる先生は、ぜひご確認ください。
まとめ
この記事では、歯科医院の院内ルールブックに最低限入れておきたい7つの項目について解説しました。
重要ポイント
- ルールブックは就業規則の「代わり」ではなく、就業規則作成に至るまでの「過程」です。
- まずは勤務時間・休日・給与・服務規律・退職などの7項目を優先的に整備しましょう。トラブル予防に直結します。
- 各ルールには「なぜこのルールがあるのか」という目的を添えることで、スタッフさんの納得感が大きく変わります。
ルールとは、組織を縛る鎖ではなく、院長先生とスタッフさんが共に進むための道しるべです。
完璧を目指す必要はありません。まずはA4数枚からでも大丈夫です。「自分もスタッフも働きたくなる医院づくり」の第一歩として、ぜひ取り組んでみてください。
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