スタッフの有給休暇管理にお悩みではありませんか?
急な休みによる診療スケジュールの混乱、年5日の有給取得義務への対応、人材確保のための職場環境改善など、歯科医院ならではの課題は少なくありません。
そんな中で注目されているのが「有給休暇の計画的付与制度」です。
この制度を上手に活用することで、診療の安定性を保ちながらスタッフの満足度を高め、人材確保・定着にもつながります。
本記事では、スタッフ数10名程度までの歯科医院を想定し、有給休暇の計画的付与について基礎知識から具体的な導入方法、成功事例まで分かりやすく解説します。
わかりやすさを重視するため、一部正確な法律用語や名称を用いていないことがありますので、ご了承ください。
目次
歯科医院における有給休暇の基本と法的義務

歯科医院スタッフの有給休暇取得率の現状
厚生労働省の調査によると、医療・福祉分野の有給休暇取得率は全産業平均と比較して低い傾向にあり、特に小規模な歯科医院では、人員に余裕がなく、スタッフが休暇を取りづらい環境が課題となっています。
小さな歯科医院では、休暇を取得するスタッフの業務を他のスタッフがカバーする負担が大きく、結果として「有給休暇はあるけれど取れない」という状況が生じていたり、
歯科衛生士などの専門職は代替が効かないため、特定の曜日に集中して休暇希望が出ると診療に支障をきたす恐れもあります。
こうした背景から、歯科医院スタッフの有給休暇取得率は50%程度にとどまるケースが多く、スタッフの満足度低下や離職率の上昇につながっている実態があります。
小規模歯科医院が知っておくべき労働基準法の規定
労働基準法では全ての事業所に有給休暇の付与が義務付けられています。
原則として、入職の日から6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤したスタッフに対して、最低10日の有給休暇を付与することが義務です。その後は勤続年数に応じて付与日数が増加します。

パートタイマーやアルバイトであっても、週の所定労働時間や出勤日数に応じた日数の有給休暇を付与する必要があります。(「比例付与」と言います。)

歯科医院では、歯科衛生士や受付スタッフなど職種によって勤務形態が異なる場合が多いため、それぞれの雇用条件に合わせた有給休暇管理が求められます。
有給休暇の時効は2年であり、付与から2年経過すると失効します。つまり、有給休暇は最大で40日間となることがあります。(正規スタッフが7年6か月以上勤務し、一度も有給休暇を使わなかった場合)
年5日の有給休暇取得義務と歯科医院への影響
2019年4月から施行された働き方改革関連法により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、年5日の有給休暇取得が義務化されました。
これは歯科医院にも例外なく適用され、違反した場合は、1人当たり30万円以下の罰金が科される可能性があります。
特に歯科治療やメンテナンスは継続性が重要であり、担当医や衛生士の急な休暇取得は予約患者さんへの影響が大きく、患者満足度に直結する問題となるため、計画的な休暇取得の仕組みを整えることが求められます。
「スタッフ本人の都合で有給休暇を取らなかった。」という理由は通用しません。
有給休暇の計画的付与制度とは?歯科医院での活用メリット

計画的付与制度の基本的な仕組みと法的根拠
有給休暇の計画的付与制度とは、労使協定を締結する(院長とスタッフの代表者が書面による協定を結ぶ)ことにより、スタッフの有給休暇の取得時季を指定できる仕組みで、
有給休暇の日数のうち5日を超える部分について、計画的に休暇取得日を割り当てることが可能になります。
例えば、スタッフに年間10日の有給休暇がある場合、そのうち5日分は個人の自由な取得を保障しつつ、残りの5日分を医院が計画的に指定可能。
歯科医院では、年末年始やゴールデンウィークなどの連休に合わせた休診日の設定や、閑散期における効率的な人員配置に活用できます。
この制度の導入には、労使協定の締結と就業規則への記載が必須となるため、できる限りスタッフの意見も取り入れながら進めることが重要なポイントとなります。
計画的付与の歯科医院経営者にとっての3つのメリット
計画的付与制度の導入には、以下のようなメリットがあります。
②法の定める要件が満たせる
年5日の取得義務への対応がしやすくなります。計画的付与を利用することで、確実に全スタッフの有給消化を進められるため、労基署の調査にも安心して対応可能になります。
③患者満足度の向上につながる
突発的な休暇取得による診療のキャンセルや予約変更リスクが軽減されます。患者さんにとっても予定通りの診療が受けられる安心感につながり、医院の信頼性向上に寄与するでしょう。
うまく計画的付与を利用することで、経営の安定と患者サービスの質の維持・向上につなげることができます。
スタッフのワークライフバランス向上と離職率低下への効果
計画的付与制度は、スタッフにとっても多くのメリットがあります。
あらかじめ休暇日が決まっていることで、家族との旅行や個人的な予定を立てやすくなり、ワークライフバランスの向上につながるでしょう。
特に歯科衛生士をはじめとして、女性が多い職場では、育児や家庭との両立支援として高く評価される傾向にあります。
実際に計画的付与制度を導入した歯科医院では、スタッフの満足度向上と離職率の低下が報告されています。「休みたいけれど言い出しにくい」という心理的ハードルを取り除き、全員が公平に休暇を取得できる環境は、職場の雰囲気改善にも寄与するはずです。
さらに、計画的な休暇取得によりリフレッシュできたスタッフは、患者対応の質も向上し、結果として医院全体のサービスレベルアップにつながります。
人材確保が難しい歯科業界において、働きやすい環境づくりは重要な差別化要因となり得るのです。
どの職場でも、どんどん有給休暇を取る人は取るけれど、取らない人は取らないということが起こりかねません。
そこで、医院が主導して休みをまんべんなく全員が取れるようにすることで、一部の人による権利の濫用を防ぐことにもつながります。
歯科医院での有給休暇計画的付与の導入ステップ

院内での合意形成と就業規則の変更手続き
有給休暇の計画的付与制度を導入するには、まず院内での合意形成が不可欠です。スタッフミーティングなどで制度の目的やメリットを丁寧に説明し、全員の理解を得ましょう。
就業規則に計画的付与の規定がない場合には、就業規則への規定が必要となります。
労使協定書の作成を行います。協定書には、計画的付与の対象となる有給休暇の日数や時季、適用除外となる条件などを明記する必要があります。
労使協定の締結に進みます。スタッフの過半数を代表する者を選出して協定を結びます。
労使協定の代表者は、代表者はスタッフ同士の投票や挙手による信任により選ばれた人でなければなりません。院長が指名した人や、管理者(管理監督者)が代表になることはできません。
診療スケジュールと連動した年間休暇計画の立て方
効果的な計画的付与を実現するには、診療スケジュールと連動した年間休暇計画の策定が重要です。
まず、可能な限り過去数年の患者来院データを分析し、月別・曜日別の繁閑期を把握しましょう。例えば、多くの歯科医院では3月や9月の歯科検診シーズンが繁忙期となる傾向があります。
このデータをもとに、閑散期に計画的付与日を設定すると効率的な運営が可能になるでしょう。
また、年末年始やゴールデンウィークなどの大型連休に合わせて休診日と計画的付与を組み合わせれば、スタッフの連続休暇を実現できます。
年間計画の作成にはカレンダー形式の視覚化ツールが便利であり、院内の休暇カレンダーとして掲示することで、スタッフ全員が休暇予定を共有できます。
計画的付与と自由取得を組み合わせた最適な制度設計
理想的な有給休暇制度は、計画的付与と自由取得をバランスよく組み合わせたものです。
例えば、年間10日の有給休暇があるスタッフの場合、5日を計画的付与、残り5日を自由取得とする設計が可能です。
また、計画的付与部分は、院全体の休診日に充てる共通取得日と、個人別の指定日に分けることも効果的な方法です。
自由取得部分については申請手続きを明確化し、できるだけ早期の申請を推奨しましょう。「原則として2週間前までに申請」などのルールを設けることで、代替人員の手配や患者の予約調整が円滑になります。
また、半日単位での取得を可能にすると、通院や家庭の用事など短時間の休暇ニーズにも対応できるため、スタッフの利便性が高まる効果が見込めます。
有給休暇の時間単位取得に関する労使協定を締結することで、時間単位での取得も可能となりますが、勤怠管理システムを利用されない場合は、管理が煩雑になるため、あまりおすすめはしません。
歯科医院特有の課題と計画的付与で解決できる問題点

急な休みによる予約キャンセルリスクの軽減策
前述したように、歯科医院において、スタッフの急な休みは患者さんの予約キャンセルや変更につながり、医院の信頼低下を招きかねません。
そこで、計画的付与制度を活用すれば、こうしたリスクを大幅に軽減できるというメリットがあります。
あらかじめ休暇日が決まっていれば、その日の予約を入れない調整が可能となるため、患者さんへの影響を最小限に抑えられるでしょう。
また、計画的付与と併せて、緊急時の応援体制を整備することも効果的な対策といえます。
●例えば、近隣の医院とのスタッフ相互サポート体制や、短時間勤務の元スタッフなど緊急時に対応可能な人材リストを整備しておくという方法も有効です。
●予約システムと休暇計画を連動させ、休暇予定日には自動的に予約枠を閉じる仕組みを導入している医院もあります。
少人数スタッフ体制でも休暇を実現する工夫
この問題を解決するには、マルチタスク化とジョブローテーションの導入が考えられます。
例えば、受付スタッフが簡単なアシスタント業務もできるようにするなど、職種間の相互サポート体制を構築していくことが重要となるでしょう。
また、休暇取得者の業務を分散して複数人でカバーする「タスク分散方式」の採用も有効な手段といえます。
午前・午後で診療内容に変化をつけ、特定の時間帯は予防処置中心にするなど、少人数でも対応しやすい診療スケジュールの工夫が解決策となります。
繁忙期と閑散期を考慮した休暇設計のポイント
歯科医院には季節による繁閑の波があり、これを休暇計画に反映させることが重要です。
具体的な方法として、過去3年分の月別・曜日別患者数をグラフ化し、直感的に繁閑期を把握するという手法が有効です。
また、地域特有の行事カレンダー(地元の祭りや学校行事など)も考慮に入れると、より精度の高い計画が立てられるでしょう。
繁忙期には全員出勤体制を確保しつつ、閑散期には交代で連続休暇を取得できるようにするなど、メリハリのある休暇設計が医院経営とスタッフ満足度の両立につながります。
他の歯科医院に学ぶ有給休暇管理の成功事例

デジタル化による有給休暇管理の効率化事例
クラウド型の勤怠管理システムを導入し、有給休暇の計画的付与を含めた休暇管理をデジタル化した事例があります。
とある医院ではスマートフォンアプリで休暇申請・承認を行い、有給休暇の残日数や取得状況をリアルタイムで確認できるシステムを採用しました。
このデジタル化により、従来の紙ベースの管理と比べて事務作業が70%削減されたほか、スタッフ自身が休暇の計画を立てやすくなったという効果が生まれました。
特に効果的だったのは、システムからの「有給休暇取得アラート」機能で、取得が進んでいないスタッフに通知が届く仕組みです。
院長は「デジタル化によって透明性が高まり、公平な休暇取得につながった。」と評価されています。
まとめ
歯科医院における有給休暇の計画的付与制度は、法的義務を果たしながら診療の安定性とスタッフの働きやすさを両立させる有効な手段の一つと言えます。
導入にあたっては、労使協定の締結や就業規則の変更といった手続きが必要となりますが、その効果は大きいものがあり、人材確保が課題となっている現代の歯科医院経営において、有給休暇の計画的付与制度は、スタッフの定着率向上と診療効率の両立を可能にする重要な施策となるでしょう。
この制度を自院の状況に合わせてカスタマイズし、より働きやすい歯科医院づくりに活用していただきたいと考えています。
①効率的な医院運営による人件費の最適化が図れる
診療スケジュールと連動した人員配置が可能になることで、効率的な医院運営が実現できます。また、繁忙期と閑散期を見極め、閑散期に計画的に休暇を集中させることで、人件費の最適化も図れます。