スタッフさんが病気やケガで長期間休む必要がある時、歯科医院ではどのように対応すべきでしょうか。
実際に、ある歯科医院では、スタッフさんから「病気療養のために1か月半ほど休ませて欲しい」と連絡があり、その対応に苦慮されたことがあります。
そこでこの記事では、歯科医院の労務管理を支援する社会保険労務士が、休職制度の作り方から就業規則への記載例、診断書の取扱い、休職期間の設定、復職判断まで、実務で必要な知識を完全解説します。
この記事でわかること
- 休職制度の基本的な仕組みと法的位置づけ
- 診断書の取扱いと確認すべきポイント
- 休職期間の適切な設定方法と延長の判断基準
- 復職時の判断プロセスと注意点
- 就業規則への具体的な記載例
目次
休職制度とは?歯科医院における基本知識
休職制度の定義と法的位置づけ
休職とは、スタッフが医院に在籍したまま、病気やケガの療養のために一定期間仕事を休ませる制度です。
重要なポイントは、休職制度は法律上の義務ではなく、医院が任意で設ける制度だということです。ただし、一度制度を設けて就業規則に記載した場合は、その内容に従って運用する必要があります。
歯科医院で休職制度が必要な理由
歯科医院は少人数で運営されることが多く、スタッフ一人ひとりの役割が重要です。そのため、以下のような理由から休職制度の整備が推奨されます。
| 理由 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 優秀なスタッフの確保 | 休職制度があることで、万が一の際も安心して働ける環境をアピールでき、採用力が向上します |
| トラブル予防 | 明確なルールがないと、休業期間や復職判断で認識の相違が生じ、トラブルに発展する可能性があります |
| 法的リスク軽減 | 適切な休職制度を運用することで、不当解雇などの訴訟リスクを軽減できます |
休職制度には、解雇を猶予するという側面があります。
休職と有給休暇・欠勤の違い
スタッフが休む際の制度には、いくつかの種類があります。それぞれの違いを正しく理解しておきましょう。
| 制度 | 給与 | 期間 | 用途 |
|---|---|---|---|
| 有給休暇 | 支給あり | 年次有給休暇の付与日数分 | 病気・私用など自由 |
| 欠勤 | 支給なし | 制限なし | 有給休暇を使い切った後の休み |
| 休職 | 原則支給なし | 就業規則で定めた期間 | 病気・ケガによる長期療養 |
多くの歯科医院では、まず有給休暇を使用し、それでも休養が必要な場合に休職制度を適用します。ただし、有給休暇を使用するか否かは、スタッフの希望によりますので、医院が指示することはできません。
健康保険(協会けんぽ)や歯科医師国保に加入しているスタッフは、休職期間中、傷病手当金を受給できる可能性があります。詳細は、後述「休職中の連絡方法と社会保険の取扱い」でご確認ください。
診断書の取扱いと確認すべきポイント
診断書が必要な理由と提出タイミング
休職を認める際、診断書の提出を求めることは一般的です。診断書には以下の重要な情報が記載されています。
- 病名または症状:どのような状態なのか
- 療養が必要な期間:どのくらい休む必要があるか
- 就業の可否:現時点で働けるかどうか
- 発行日と医師名:診断の正当性を証明
診断書の提出タイミングは、スタッフから休職の申し出があった時点が基本です。
スタッフ自ら診断書を提出してくることもあります。
診断書で確認すべき5つのポイント
提出された診断書を受け取ったら、以下のポイントを必ず確認しましょう。
| 確認項目 | チェックポイント |
|---|---|
| ①休職期間の記載 | 「○月○日から○月○日まで療養を要する」など具体的な期間が明記されているか |
| ②医師の所見 | 「就業不可」「療養を要する」など、明確な判断が記載されているか |
| ③医療機関の情報 | 医療機関名、所在地、医師名、医師の押印があるか |
| ④発行日 | 診断書の発行日が最近のもので、有効期限内か |
| ⑤記載内容の整合性 | スタッフからの申し出内容と診断書の内容に矛盾がないか |
診断書に不備があった場合の対応
診断書に必要な情報が記載されていない場合は、スタッフに再発行を依頼します。その際は、どの情報が不足しているかを具体的に伝えましょう。
例:「療養期間が明記されていないため、主治医の先生に『○月○日から○月○日まで療養を要する』という形で記載していただけますか」
診断書の再発行には費用がかかります。最初の診断書発行時に、必要な記載事項を医師に伝えておくとスムーズです。
休職期間の適切な設定方法
歯科医院における休職期間の目安
休職期間は、法律で定められているわけではありません。各医院が就業規則で自由に設定できます。
📆休職期間の設定例:
| 勤続年数 | 休職期間の目安 |
|---|---|
| 1年未満 | 1〜3ヶ月 |
| 1年以上3年未満 | 3〜6ヶ月 |
| 3年以上 | 6ヶ月〜1年 |
🪥小規模な歯科医院での設定例:
| 勤続年数 | 休職期間の目安 |
|---|---|
| 1年未満 | 休職なし~1ヶ月 |
| 1年以上3年未満 | 1〜3ヶ月 |
| 3年以上 | 3ヶ月〜6ヶ月 |
就業規則の作成時には実感がなく、なんとく期間設定をされる院長先生がいらっしゃいますが、実際に1人のスタッフの復帰にどれくらいの期間待てるのかをよく検討してから期間を設定してください。
休職期間を決定する際の考慮事項
休職期間を設定する際は、以下の要素を総合的に判断します。
- 診断書に記載された療養期間:医師が必要と判断した期間
- スタッフの勤続年数:長く勤務しているスタッフほど長めに設定
- 医院の業務状況:代替要員の確保が可能か
- 症状の種類:身体的疾患か精神的疾患か
精神疾患の場合、身体的疾患と比べて回復に時間がかかる傾向があります。メンタル不調による休職では、最低でも1ヶ月以上の休職期間を設定することが推奨されています。
休職期間の延長判断と注意点
当初設定した休職期間内に回復しない場合、延長を検討する必要があります。延長判断の際は以下の手順を踏みましょう。
- 最新の診断書を取得:延長が必要な理由と期間が記載されたもの
- 本人との面談:現在の状態と復職の見通しを確認
- 就業規則の確認:延長可能な上限期間を確認
- 書面での通知:延長を決定した場合は文書で通知
⚠️ 重要な注意点
就業規則で定めた休職期間の上限を超えても復職できない場合は、自然退職とするのが一般的です。この点は就業規則に明記し、休職開始時にスタッフに説明しておくことが重要です。
復職判断のプロセスと注意点
復職可能の判断基準
スタッフから復職の申し出があった場合、以下の基準で復職可能かを判断します。
| 判断項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 主治医の診断 | 「就業可能」と明記された診断書があるか |
| 通常業務の遂行能力 | 休職前と同じ業務を支障なく行えるか |
| 通勤能力 | 決められた時間に出勤し、勤務時間を継続できるか |
| 対人関係の維持 | 患者さんや同僚と適切にコミュニケーションが取れるか |
復職前の面談で確認すべきこと
復職を判断する前に、院長またはチーフとスタッフで面談を実施しましょう。面談では以下のポイントを確認します。
- 現在の体調と治療の状況
- 復職への意欲と準備状況
- 復職後に配慮してほしいこと
- 再発防止のための取り組み
- 主治医から指示されている制限事項
段階的な復職支援の方法
いきなりフルタイムでの復職は、スタッフの負担が大きく再発のリスクが高まります。可能であれば、以下のような段階的復職を検討しましょう。
| 段階 | 期間 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 1〜2週間 | 短時間勤務(1日4〜5時間) 軽作業中心 |
| 第2段階 | 2〜4週間 | 通常勤務時間 通常業務(患者対応は軽め) |
| 第3段階 | 1ヶ月〜 | フルタイム勤務 完全復帰 |
小規模な歯科医院では人員に余裕がなく、段階的復職が難しい場合もあります。その場合は、業務内容の調整(アシスタント業務を減らす、予約枠を調整するなど)を検討せざるを得ません。
厚生労働省から「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」という資料が配布されているので、参考にしてみてください。
復職後のフォローアップ
復職後も定期的にフォローアップを行い、無理なく働けているかを確認しましょう。
- 復職後1週間後:体調や業務の状況を確認
- 復職後1ヶ月後:本格的な復帰に問題がないか確認
- 復職後3ヶ月後:完全復帰の可否を最終判断
就業規則への記載例と作成のポイント
休職制度を就業規則に記載すべき項目
休職制度を設ける場合は、就業規則に以下の項目を必ず記載しましょう。
| 必須記載項目 | 記載内容 |
|---|---|
| ①休職事由 | どのような場合に休職が認められるか |
| ②休職期間 | 最長どのくらい休職できるか |
| ③手続き方法 | 診断書の提出など必要な手続き |
| ④休職中の待遇 | 給与の支給有無、社会保険の扱い |
| ⑤復職の条件 | どのような状態になれば復職できるか |
| ⑥期間満了時の扱い | 復職できない場合の退職規定 |
歯科医院向け就業規則の記載例
以下は、歯科医院向けの休職規定の記載例です。医院の実態に合わせて調整してください。
第○条(休職)
スタッフが次の各号のいずれかに該当する場合、休職を命ずることがある。
1. 業務外の傷病により、欠勤が継続・断続問わず30日を超え、その傷病が治癒しないとき
2. 精神または身体の疾患により、業務に従事させることが不適当と認められるとき
3. その他前各号のほか、特別の事情により医院が休職させることが適当と認めたとき
第○条(休職期間)
休職期間は、次の期間を上限として医院が定める。
勤続1年未満:2ヶ月
勤続1年以上3年未満:4ヶ月
勤続3年以上:6ヶ月
第○条(休職中の取り扱い)
1. 休職中の従業員は、休職期間中は、療養に専念しなければならない。治療目的を逸脱する行為や医院の信用を失墜させるおそれのある行為があった場合は、休職を打ち切り、懲戒処分を行うことがある。
2. 医院は、休職中の従業員に対し、医院指定医師の受診を命じることができ、従業員は正当な理由がない限り、これに応じなければならない。
3. 休職中の従業員は、医院の求めに応じ、自己の傷病等について、原則として1ヶ月に1回以上報告しなければならない。
4. 休職期間中の給与は支給しない。
5. 休職期間中も社会保険の被保険者資格は継続する。保険料の自己負担分は、スタッフが負担する。
第○条(復職)
1. 休職事由が消滅した場合は、原則として元の職務に復帰させる。ただし、会社の都合により、休職前の職務と異なる職務に配置することがある。この場合、労働条件等の見直しを行うことがある。
2. 復職を希望する場合は、医師の復職可能の診断書を提出しなければならない。
3. 医院は、復職の可否判断のため、本人との面談や主治医、医院指定医師の意見聴取を行うことがある。
第○条(休職期間満了時の退職)
休職期間が満了しても休職事由が消滅せず、復職できない場合は、休職期間満了日をもって自然退職とする。
治癒について定義して明記しておくこともおすすめです。
例:「従来の業務を罹病する前と同様に通常業務遂行できる程度に回復することを意味する」
さらに追加を検討する項目:
●スタッフが医院と主治医との面談や意見聴取に協力しないとき⇒休職を命じない・復職を認めない旨を規定
●復職後に再度休職が必要となったとき⇒復職後(6)ヶ月以内に同一ないし類似の事由により欠勤ないし通常の労務提供をできない状況に至ったときは、復職を取り消し、直ちに休職させる。旨を規定
●休職期間中の社会保険料の自己負担分・住民税の取り扱い⇒社会保険料の本人負担と住民税は、毎月医院が指定する日までに振り込む。また、住民税は普通徴収に切り替えることがある。旨を規定
就業規則作成時の注意点
休職規定を就業規則に記載する際は、以下の点に注意しましょう。
- 医院の実態に合わせる:大企業向けのテンプレートをそのまま使うと、小規模歯科医院では運用できない場合があります
- スタッフへの周知:作成した就業規則は、必ずスタッフに説明し、いつでも閲覧できるようにします
- 定期的な見直し:法改正や医院の状況変化に応じて、年1回は内容を見直します
就業規則の本質は、経営者を”ラク”にして、ストレスを軽減することです。明確なルールがあることで、その都度判断する負担が減り、スタッフとのコミュニケーションもスムーズになります。
休職中の連絡方法と社会保険の取扱い
休職中の適切な連絡頻度
休職中もスタッフとの連絡を完全に断つべきではありません。ただし、頻繁すぎる連絡は療養の妨げになります。
推奨する連絡頻度:月1回程度
- 体調の確認
- 復職の見通し
- 必要な手続きの案内
連絡方法は、スタッフの希望を確認し、メールやLINEなど負担の少ない方法を選びましょう。
社会保険料の取扱いと傷病手当金
休職中も社会保険の被保険者資格は継続します。そのため、保険料の支払いが必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 健康保険料 | 休職中も継続。本人負担分は本人が支払う |
| 厚生年金保険料 | 休職中も継続。本人負担分は本人が支払う |
| 雇用保険料 | 給与が発生しないため徴収なし |
| 傷病手当金 | 連続3日間休んだ後、4日目から最長1年6ヶ月支給 |
⛑️傷病手当金とは
業務外の病気やケガで働けなくなった場合、健康保険から給付される制度です。給与の約3分の2相当額が支給されます。
歯科医師国保の場合は、加入している組合によって制度が異なりますので、組合に確認が必要です。
休職するスタッフには、傷病手当金の申請方法を案内しましょう。医院としても、申請書類への記入協力が必要です。
休職制度でよくあるトラブルと対策
ケース1:休職中に他でアルバイトをしている
問題点:療養が必要として休職しているにもかかわらず、他の仕事ができる状態は矛盾しています。
対策:就業規則に「休職中は他の業務に従事してはならない」と明記し、違反した場合は懲戒処分または休職の取り消しができるようにしておきましょう。
ケース2:診断書の内容と本人の状態が一致しない
問題点:「就業不可」の診断書があるのに、SNSで旅行の写真を投稿しているなど、療養している様子が見られない。
対策:主治医の判断を尊重しつつ、必要に応じて産業医の意見を求めましょう。また、定期的な面談で状況を確認することも重要です。
ケース3:復職後すぐに再び休職となる
問題点:復職してもすぐに体調を崩し、再度休職を繰り返す。
対策:就業規則に「復職後○ヶ月以内に同じ理由または類似の理由で再度休職する場合は、前後の休職期間を通算する」と規定しておきましょう。これにより、無制限に休職が延長されることを防げます。
社会保険労務士が教える休職制度運用のポイント
小規模歯科医院ならではの配慮
小規模歯科医院では以下のような特有の配慮が必要です。
- 代替要員の確保:一人が休職すると他のスタッフへの負担が大きくなるため、事前に対応策を検討
- 柔軟な対応:規則は大切ですが、小規模だからこそできる柔軟な配慮も検討
- 院長の判断基準:すべて院長が判断するのではなく、明確な基準を設けて判断の負担を軽減
文書化と記録保存の重要性
休職に関する以下の記録は、必ず文書で残し保管しておきましょう。
- 診断書(原本またはコピー)
- 休職辞令(休職開始日、期間、理由を記載)
- 本人との面談記録
- 延長の際の新しい診断書
- 復職に関する記録
これらの記録は、万が一トラブルになった際の重要な証拠となります。
メンタルヘルス不調への特別な配慮
近年、メンタルヘルス不調による休職が増加しています。身体的疾患とは異なる配慮が必要です。
| 配慮事項 | 具体的な対応 |
|---|---|
| 長めの休職期間 | 最低でも1ヶ月以上の療養期間を確保 |
| 段階的復職 | いきなりフルタイムではなく、徐々に勤務時間を増やす |
| 職場環境の調整 | 休職の原因となった要因(人間関係、業務内容など)への配慮 |
| 定期的なフォロー | 復職後も月1回程度の面談を実施 |
休職制度についてよくある質問
まとめ:歯科医院の休職制度で働きたくなる組織へ
本記事では、歯科医院における休職制度の作り方を詳しく解説しました。
重要ポイント
- 休職制度は法的義務ではないが、整備することで院長の判断負担が軽減される
- 診断書では療養期間と就業可否を必ず確認する
- 休職期間は勤続年数に応じて設定し、上限を明確にする
- 復職判断は診断書だけでなく面談で総合的に判断する
- 就業規則には必要な項目を漏れなく記載する
- 休職中も適度な連絡を保ち、傷病手当金の案内をする
適切な休職制度があることで、スタッフは万が一の際も安心して働けます。そして、明確なルールは院長のストレスを軽減し、「自分もスタッフも働きたくなる組織」の実現につながります。
小規模歯科医院の皆様が、適切な休職制度を整備し、スタッフが安心して長く働ける環境を作れるよう、ぜひ実践してみてください。
✅初回相談無料
初回相談(30分)は無料ですので、「現在の休職規定を確認してほしい」「これから作成したい」という段階でもお気軽にお問い合わせください。
















