神戸市で飲食店、美容室、歯科医院を経営されているオーナー、院長先生。
「繁忙期の残業代を減らせる労働時間制度がある」と聞いて、1年単位の変形労働時間制の導入を検討されていませんか?
確かに、季節によって忙しさが大きく変動する業種では、労働時間を柔軟に調整できる制度として注目されます。
しかし、実はこの制度には複雑な運用ルールがあり、予約状況が日々変動する業種での導入は極めて困難なのが実情です。
そこでこの記事では、社労士×生成AI活用アドバイザーの視点から、1年単位の変形労働時間制の基本と、なぜ特定の業種では導入・運用が難しいのかを詳しく解説します。
この記事でわかること
- 1年単位の変形労働時間制の基本的な仕組みと要件
- 運用方法と細かなルール
- 飲食店・美容室・歯科医院で運用が困難な具体的理由
目次
1年単位の変形労働時間制とは?基礎知識を確認
制度の基本的な定義
1年単位の変形労働時間制とは、1か月を超え1年以内の期間を平均して、週40時間以内となるように労働時間を配分できる制度です。
通常の労働時間制度では、1日8時間・週40時間が上限ですが、この制度を導入すると、繁忙期に1日10時間・週52時間まで働かせることができます。
その代わりに、閑散期の労働時間を短くして、年間平均(期間平均)で週40時間以内に収める必要があります。
どのような業種に適しているか
この制度は、年間を通じて明確な繁閑の差がある業種に適しています。
具体的には、季節商品を扱う製造業、レジャー施設、リゾート地の宿泊施設などです。
例えば、夏場に集中的に忙しくなるプール施設や、冬場が繁忙期のスキー場などが該当します。
一方で、日々予約状況が変わる飲食店や美容室、患者数の予測が難しい歯科医院では、1年前から各月の労働日数と労働時間を確定させることが困難であり、実際の運用は極めて難しいと言えます。
1か月単位の変形労働時間制との違い
1か月単位の変形労働時間制との主な違いは、対象期間の長さと規制の厳しさです。
| 項目 | 1年単位 | 1か月単位 |
|---|---|---|
| 対象期間 | 1か月超~1年以内 | 1か月以内 |
| 1日の労働時間の上限 | 10時間 | 上限なし |
| 連続勤務日数の上限 | 原則6日(特定期間12日) | 上限なし (4週4日以上の休日は必要) |
| 年間労働日数の上限 | 280日(1日7.27時間の場合) | 313日 |
1年単位の方が対象期間は長いものの、労働者保護の観点から様々な制限が設けられているため、実際の運用は1か月単位よりも複雑になります。
【1日の所定労働時間別の必要休日日数】

1年単位の変形労働時間制の厳格な要件
労働時間と労働日数の上限
前述と重複しますが、1年単位の変形労働時間制には、以下のような上限が設定されています。
- 1日の労働時間:10時間まで
- 1週間の労働時間:52時間まで
- 年間労働日数:280日まで(休日は最低85日必要)
- 連続勤務日数:原則6日まで(特定期間は12日まで可能)
- 週48時間超の週:連続3週まで、3か月ごとに3週まで
年間の総労働時間は、通常の年で2,085時間、うるう年で2,091時間が上限となります。
【対象期間別の総労働時間の上限】は下図のとおりです。

労働日・労働時間の特定方法と「30日前ルール」
1年単位の変形労働時間制では、労働日と労働時間を特定する方法が2つあります。
【方法1:年間カレンダー方式】
対象期間の開始時に、1年間すべての労働日と労働時間を確定させる方法です。1年先まで業務の繁閑が予測できる業種でなければ、実質的に不可能です。
【方法2:月ごと区分方式】
対象期間を1か月以上の期間ごとに区分し、各期間の初日の少なくとも30日前までに、その期間の労働日と労働時間を特定する方法です。
例えば、5月分のシフトは4月1日まで(5月1日の30日前)に確定させる必要があります。しかも、一度特定したら任意に変更することはできません。
予約状況が日々変動する飲食店、美容室、歯科医院では、約1か月前の時点で正確なシフトを組むことは極めて困難です。
1か月単位の変形労働時間制の場合は、対象期間の初日の前日までにシフトを決定し、通知をすれば良いことになっています。
労使協定の締結と届出義務
1年単位の変形労働時間制を導入するには、以下の手続きが必須です。
- 労働者の過半数代表者との書面による労使協定の締結
- 就業規則への明記
- 労働基準監督署への届出
労使協定には、対象労働者の範囲、対象期間、各労働日の労働時間、特定期間などを詳細に記載する必要があります。
従業員が数名しかいない小規模事業所では、この書類作成と管理だけでも大きな負担となります。
残業代の複雑な計算方法
日・週・年(対象期間)の3つの単位で計算が必要
1年単位の変形労働時間制では、残業時間を「日」「週」「年」の3つの単位で別々に計算する必要があります。
日単位の残業
- 所定労働時間が8時間以下の日は、8時間を超えた分が残業。
- 所定労働時間が8時間超の日(例えば10時間)は、その所定労働時間(10時間)を超えた分が残業。
週単位の残業
- 所定労働時間が40時間以下の週は、40時間を超えた分が残業(日単位で計算した残業時間を除く)。
- 所定労働時間が40時間超の週は、その所定労働時間を超えた分が残業。
年単位の残業(対象期間)
- 年間の総実労働時間が、法定労働時間の総枠(2,085時間)を超えた分が残業(日・週単位で計算した残業時間を除く)。
年単位(対象期間)での残業時間の計算があるため、対象期間が終わらなければ、残業時間が確定しないという点が非常にややこしいです。
期間途中の入社・退職時の清算
さらに複雑なのが、対象期間の途中で入社や退職があった場合の処理です。
例えば、対象期間の途中で退職する社員がいた場合、その時点までの実労働時間を計算し、法定労働時間を超えていれば精算して残業代を支払う必要があります。
逆に、法定労働時間に達していない場合でも、既に支払った賃金を返還請求することは原則できません。
【中途入社・退職時の計算式】

時間外労働の上限規制との関係
1年単位の変形労働時間制を採用している場合、36協定で定める時間外労働の上限が通常よりも厳しくなります。
- 通常:月45時間・年360時間
- 1年単位の変形労働時間制:月42時間・年320時間
この上限を超えると労働基準法違反となり、罰則の対象となります。
飲食店・美容室・歯科医院での運用が困難な理由
約1か月前のシフト確定が現実的でない
飲食店、美容室、歯科医院に共通する特徴は、予約状況や来客数が日々変動し、1か月前の予測が困難なことです。
月ごと区分方式では、各月の初日の30日前までにシフトを確定させる必要があります。
例えば毎月1日を起算日とすると:
- 5月分のシフト → 4月1日までに確定
- 6月分のシフト → 5月2日までに確定
- 7月分のシフト → 6月1日までに確定
しかし、これらの業種では、GW、お盆、年末年始などのイベント時期、天候、突発的な予約キャンセルや追加予約など、変動要因が多すぎます。
仮に事前にシフトを組んでも、実際の業務量とかけ離れてしまい、結局は通常の残業が発生するため、制度導入の意味がなくなってしまいます。
一度確定したシフトは変更できない
さらに厳しいのが、一度特定した労働日・労働時間は任意に変更できないというルールです。
例えば、5月のシフトを4月1日に確定した後、実際に5月になって予約状況が変わったとしても、原則として変更はできません。
この硬直性が、日々状況が変わる小規模サービス業にとって、最大の障壁となります。
この点は1か月単位の変形労働時間制も同じで、一度決定したシフトをお店や医院が任意に変更することはできません。
変更のためには、具体的な理由や変更の手続きをあらかじめ規定しておく必要があります。
スタッフの入れ替わりによる清算の複雑さ
これらの業種では、スタッフの入れ替わりが比較的多い傾向があります。
対象期間の途中で入社や退職があるたびに、その時点での労働時間を精算する複雑な計算が必要になります(詳細は前述の残業代計算セクション参照)。
社労士として多くの事業所を見てきましたが、この制度を正しく運用できている小規模事業所はほとんど見たことがありません。
給与計算ミスや未払い残業代が発生するリスクが非常に高くなります。
1か月単位の変形労働時間制との比較
もし労働時間の柔軟な調整を検討されているのであれば、1年単位ではなく1か月単位の変形労働時間制の方が現実的です。
1か月単位であれば、1か月前の時点でシフトを確定すればよく、予約状況もある程度見通しが立ちます。また、労働時間の上限規制も1年単位ほど厳格ではありません。
ただし、それでも運用には十分な注意が必要です。
よくある誤解と注意点
「残業代を払わなくてよい」は大きな誤解
最も危険な誤解が、「変形労働時間制を導入すれば残業代を払わなくてよい」というものです。
変形労働時間制は、あくまで労働時間を柔軟に配分できる制度であり、所定労働時間を超えた労働には必ず残業代の支払いが必要です。
むしろ、前述のように日・週・年の3つの視点で計算が必要になるため、通常の労働時間制よりも残業代の計算が複雑になります。
「業務都合であればシフトを変更できる」という誤解
もう一つの大きな誤解が、「業務都合であればシフトを任意に変更できる」というものです。
実際には、一度特定した労働日・労働時間は原則として変更できません。業務の都合で任意に変更することは、この制度の前提に反するため認められていません。
頻繁に休日振替や労働時間の変更が必要な職場では、1年単位の変形労働時間制は向いていません。
単に「業務都合による」では、シフトの変更はできませんので、個別具体的な変更理由を就業規則に規定しておきましょう。
適用できない労働者の存在
以下の労働者には、1年単位の変形労働時間制を適用できません。
- 満18歳未満の年少者:原則として適用不可
- 妊産婦:本人が請求した場合は1日8時間・週40時間まで
- 育児や介護を行う労働者:配慮が必要
若いスタッフが多い職場では、18歳未満のアルバイトには別の労働時間管理が必要になり、さらに複雑になります。
労働基準監督署の指導リスク
1年単位の変形労働時間制は要件が厳格なため、不適切な運用をしている事業所は労働基準監督署の指導対象となりやすい制度です。
特に以下のような違反が多く見られます。
- 労働日・労働時間を事前に特定していない
- 労使協定を届け出ていない
- 残業代の計算方法が間違っている
- 途中入退社者の精算を行っていない
違反が発覚すると、未払い残業代の遡及支払いや、最悪の場合は刑事罰の対象となる可能性もあります。
社労士が教える労務管理のポイント
小規模事業所に適した労働時間制度の選択
神戸市の飲食店、美容室、歯科医院のような小規模事業所には、以下の労働時間制度が現実的です。
- 通常の労働時間制(1日8時間・週40時間):最もシンプルで管理しやすい
- 1か月単位の変形労働時間制:月ごとの繁閑に対応可能
- 1週間単位の非定型的変形労働時間制:従業員30人未満の飲食店等が対象
どの制度が適しているかは、業種、規模、業務の特性によって異なります。専門家に相談して、自社に最適な制度を選択することが重要です。
適切な勤怠管理システムの導入
もし変形労働時間制の導入を検討する場合、勤怠管理システムの導入は必須と考えてください。
手書きのタイムカードやExcel管理では、複雑な残業計算に対応できず、必ずミスが発生します。
最近では、1人数百円(月)から利用できるクラウド型の勤怠管理システムもあり、変形労働時間制に対応したものも多くあります。
専門家への相談タイミング
以下のような状況では、必ず社労士などの専門家に相談することをお勧めします。
- 変形労働時間制の導入を検討している
- 既に導入しているが、運用が適切か不安
- 残業代の計算方法がわからない
- 労働基準監督署から指導を受けた
不適切な運用を続けていると、従業員とのトラブルや法令違反のリスクが高まります。早めの相談が重要です。
まとめ:1年単位の変形労働時間制は慎重に検討を
本記事では、1年単位の変形労働時間制の基本と、小規模サービス業での運用が困難な理由を解説しました。
重要ポイント
- 月ごと区分方式でも、各月の初日の30日前までに労働日・労働時間を特定する必要がある
- 一度特定したシフトは原則として変更できない硬直性がある
- 約1か月前の時点で正確なシフトを組めない飲食店・美容室・歯科医院では運用が極めて困難
- 残業代計算が複雑で、不適切な運用は法令違反のリスクが高い
- 小規模事業所には、1か月単位や通常の労働時間制の方が現実的
神戸市の小規模事業所の皆様が、自分もスタッフも働きたくなる組織づくりを実現するために、自店舗・自医院の実情に合った労働時間制度を選択することが何より重要です。
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